アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

降臨者14

投稿日:2016年5月14日 更新日:

 突然外が暗くなり、一瞬パニックになる。
そしてあぁ、そういえばこの世界の日は突然「落ちる」んだったなと、思い出した。

「まりあ、明かりはどこ?」
「階段のそばにランプが……」

 光源もなく突然の暗闇に対応しきれないナギカとまりあだったが、夜目の効くカインがすぐさま階段付近にかけてあったランプに火を灯す。
魔法も、現代の電気みたいな感じで便利なんだな。

「えっ、今何時だ。早くないか?」
「さすがに早すぎる。巫女に何かあったのかもしれない」

 言いながらカインは、他にもあった大きめのランプに次々と火を灯していった。室内がそれなりに明るさを取り戻すと、同じように混乱しているらしい人々のざわめきが外から聞こえてくる。
それに交じって、大きな獣の唸り声のようなものがごく近くから聞こえた。近くの、バルコニーのあたりから。

「やべぇ……セピアを竜舎に連れて行かないと!」
「どうしよう、フィリアがまだ帰ってきてないのに……」
「なんでこんなに騒がしいんだ? シャドウがもう湧いてるのかもしれない。おれ、外の護衛に行ってくる」

 カインが剣に手をかけて外へと飛び出していく。それと同時にブレイドも二階へ駆け上がっていった。
さっきから外で唸っている声の主はセピアらしい。

「室内にシャドウは湧かない。外に出ないで。日が昇ったら迎えに来るってカインにも伝えといてくれ」
「気を付けてね、ブレイド」

 そう言ってまりあはブレイドを見送った。

 皆、この突然の暗闇でも淡々と自分のすべき行動をとっている。自分一人だけが異常に怖がっていることにまりあが気付いたのか、そっと手を握られた。

「大丈夫、シャドウは室内には絶対に入ってこられないし、最近は夜がすごく早いから、あたしたちはいつかこんな事になるんじゃないかって、心の準備ができていただけなのよ」

 そう言って先ほどまで皆と座っていたダイニングキッチンの椅子を引いてくれた。座れという事らしい。

 暖かいランプの光が室内を照らす。外は真っ暗で、困惑する人々の声がここまで聞こえる。
しかし、その中に悲鳴の類は無く、外に取り残された者は近場の建物に避難させてもらっているらしい。

「巫女に何かあったって、どういう意味なの?」

 日を作る巫女の話は、前にカインから聞いていた。
自分の世界では当たり前に存在する太陽が、ここでは人工的に作られているとは、今でも信じがたい。

「日を作る巫女はね、一人じゃないのよ。『今の巫女がダメになった時のために』何人もいるの」

 まりあは少しうつむき加減に話してくれた。インフィニティの巫女の話を。

「あの『日』は、巫女の命そのものを空に打ち上げるモノなの」

 巫女はインフィニティで子を成した後、日の管理者となる任に着く。
それまでは何一つ不自由なく育ち、幼少期は悪いものとは一切関わらないように、それは大切に育てられるらしい。そうして、管理者に選ばれた後、日の管理者にのみ許された禁術でもって命を日に変え、空に放つ。

 やがて禁術の副作用で巫女の体はボロボロになるが、巫女はこれまで通りたくさんの従者たちによって、不自由なく生活をすることができる。
しかし巫女の寿命が近づくにつれ、日を空に打ち上げる力も衰えるために、世界の昼間の時間はだんだんと短くなる。
やがて今の巫女が力尽きた時、次の日からまた新たな巫女が日の管理者になる。

 巫女は、消耗品なのだ。

 この世界のすべての人が、この巫女の事実を知っていて、尚且つそれを受け入れているからこそ、誰も巫女とインフィニティに逆らう者はいないのだ。昼間の時間がどんなに短くなろうが、誰も文句を言えやしない。

 この世界は、巫女の犠牲の上に成り立つ世界。

「だから各国は、たとえ戦争中であろうとインフィニティに尽くし、巫女のための物資や人の献上は忘れない。日がなければ世界は闇に閉ざされて、シャドウだらけになっちゃう」
「その、シャドウってのも何なの? 私何回か会ったけど、あんまり見てないっていうか、見るなって止められたんだけど……」

 これまでの道中で何度も夜に遭遇した黒いアレ。ランカーに見てはいけないと言われた時、「あれこそ、我らが最も忌むべきモノの一つ」と言っていたのが気になった。

「シャドウの正体はあたしも良くわからないんだ。多分、皆知らないと思う」
「そうなんだ」
「ただ、日が落ちると暗がりから出てきて、人を襲うの。わかっていることは、建物の中には湧かないことと、明かりを嫌うこと、ドアのついている建物には入ってこれないことね。それと……シャドウに襲われると、稀に異形になるってこと」

 重々しくまりあが口を開いたが、異形とは?

(また知らない単語だ……)

 異形についても詳しく聞きたいが、初対面でこうも質問攻めだと嫌がられやしないだろうかと不安になる。しかし、命がかかっているのに遠慮なんてしていられない。

「あの……っ!?」

 口を開きかけたその時、外から男の悲鳴が聞こえた。

「何!?」

 直後に鐘を打ち鳴らすような複数の金属音が大音量で鳴り響く。落ち着いていた人々の声が、再び混乱して行くのがわかる。
上空で獣のような咆哮がする。近くにドラゴンが来たかのような、覚えのある突風。同時に地面が揺れる。

 思わず立ち上がり、まりあは玄関を確認しにドアに近づく。
玄関ドアの小窓から、ランプを片手に掲げたブレイドとセピアの姿がはっきりと見えた。しかし彼はこちらに向けてではなく、付近の住民全てに向けて声を張り上げる。

「異形だ! 各自明かりを持って火を絶やすな! 感染部分は周知ののち、即退避。以上!」

 ブレイドの言葉を聞いて、周囲はいっそうざわつく。伝令役なのか、すぐにブレイドはセピアと共に姿を消した。
未だに金属音は鳴り響いている。耳障りなこの音は、この世界の異常を知らせるサイレンなのかもしれない。

 そういえば、カインがまだ、帰ってきていない。

「大丈夫、だよね……?」

 ポツリとこぼした言葉に、まりあが反応した。

「……見に行ってみる?」
「えっ!?」

 そう言ったまりあは、少しだけ楽しそうな顔をしている。

「ちょっと待っててね」

 まりあは今使っていない部屋のランプもマッチを使って全て灯し、部屋中を明るくした。

「明るいところに異形は近寄りにくいの。まぁそれでも来るときは来るけど、明かりを持って火を絶やすなっていうのは、こういうこと」

 そして手提げランプを二つ用意した。まりあの分と、ナギカの分だ。
見に行くというのは決まりらしい。

「大丈夫なの?」

 そもそも、異形が何なのか知らないが、これだけ大掛かりな警告が鳴り響くくらいなのだから、相当危ないのだろう。
しかも、ナギカは戦う手段を持たない。完全に足手まといだ。

 言っちゃ悪いが、まりあも軽装だ。いや、普通の女の子の服装だ。
とても戦えるようには見えない。

「異形っていうのは、病みたいなものなの。触ると感染して、そこから異形になる」
「じゃあ危ないんじゃない!?」

 異形をこれほど警戒する理由がわかった。
接触感染ならば、近づくだけで危ない。

 しかし、まりあの表情は余裕だ。笑みすら浮かべている。
ナギカはその理由がわからず困惑した。

「でもね、なぜか『降臨者』は感染しないのよ」

 つまり、降臨者であるナギカとまりあは、異形に触れても異形にならない。
この世界の人たちが、これほど恐れる異形への耐性が無条件でついている?

 ここに来て発覚した、自分に備わるチート属性。正直、あまりうれしくはない。

「あっ、でも攻撃されたら普通に痛いから、頑張って避けようね?」
「攻撃してくるの!?」
「大丈夫! 異形はその場から動かないから、安全な場所から見るだけ。多分、聖騎士団か討伐部隊は、もういると思うから」
「う、うん……あ、でも外にはシャドウもいるんじゃない?」
「あいつらって、ウロウロしてるばっかりで襲ってこないわよ?」

 まりあは手提げランプの一つをナギカに手渡した。魔法でつけたランプと違い、火の眩しさと温かさが伝わってくる。

 シャドウが襲ってこないなんて初耳だった。現にナギカはシャドウの襲撃を受けている。しかし、あの時シャドウがナギカを狙っていたのかは分からない。
外へ踏み出すのに躊躇していると、まりあが手を繋いで引いた。

「ほら、行こう?」

 ドアを開け放ち、まりあは外へ出た。

 勇気を出して一歩、外に出てみる。その瞬間を襲うものはない。
背後のドアが閉まる。二人揃って完全に外に出たが、襲われる気配はない。周囲にシャドウもいない。

 あれほど夜が恐ろしいと感じていたのに、降臨者というだけでまさかの無敵状態。
なんだか拍子抜けした。

 まりあがぐいと手を引いたので、もうされるがままに引っ張られて、夜のアステリアを早足で進む。
けたたましい鐘の音の中、二つの月が空に浮かぶ。その人気のない異世界の街を二人で歩いている。
なんだか不思議な気分だった。

「あたしは、もう慣れたよ」

 前方を見据えたまま、ポツリとまりあがそうこぼす。
その一言の真意を聞くことはできなかった。

 鐘の音の方へ向かって歩いていると、見覚えのある格好の集団が見えてきた。
あの特徴的な白い鎧姿は、聖騎士団の団体だ。

 彼らの多くは剣を手にしてはいるが、積極的に前に進むことはしない。
異形に集うシャドウを牽制しながらも、異形本体から時折伸びる、根のような組織を切り払うのが主な役目だ。

 異形はその場から移動はしないが、根を広範囲に張り巡らすことによって、その活動拠点を広げるらしい。
これ以上周囲を異形に浸食されないようにしつつ、異形が持つコア(核)を破壊するのが異形討伐に必要なことらしい。

 コアというのは異形の心臓に当たる宝石状の物質で、それを破壊しない限り、異形は不滅らしいという事を、ざっくりとまりあは説明してくれた。

 見学に来たは良いが、聖騎士団員の壁によって、肝心の異形の姿はほとんど見えない。
かといって、完全に部外者で戦闘の出来ない自分たちが、「ちょっとそこ見たいから退けてください」とか言うわけにもいかないのだから、大人しく外側から騒ぎを見守ることにした。

 しかしどうも、様子がおかしい。

「何なんだよこいつ! 浸食のスピードが異常に早いぞ!」
「早く魔術師の奴らを呼べ! これ以上浸食される前に、外側の家を焼いてしまえ!」
「どうしてこんなにシャドウが沸いてくるんだ!」

 目の前の聖騎士団の壁がドッと崩れた。
シャドウの大群に押され始めているらしい。

 聖騎士団たちが散り散りになって戦うおかげで、異形を遮るものがなくなった。ナギカは異形とやらの姿を、直にこの目で見た。

 ―――異形。
正しく、異形だ。

 その姿は赤く、黒く、醜く、異様で醜悪だ。
シャドウはヒトの形をしているが、異形は違う。
シャドウも嫌悪感をもたらす姿をしてはいるが、異形は……

 ……吐きそうだ、気持ちが悪い。

「ナギカ、大丈夫!?」

 グラグラと視界が揺れる。とっさにまりあが支えてくれなかったら蹲っていたところだった。
胃から込み上げてくるものを必死に抑えないとまずい。しかし、異形から目をそらせない。

 異形と、目が合っている。

 ナギカには聞こえた。あの異形は必死に叫んでいる。
こちらに、手を伸ばしている。
助けを求めているのだ。異形が。

「ナギ! 何でここに……」

 知っている声がした。
ハッと異形から目をそらす。

 金の髪に、ふわりと宙を舞う長いしっぽが見える。カインだ。
飛ぶように移動しながらも、異形から伸ばされる触手のような根を次々切り払い、雷撃の魔法を放ち、一瞬硬直した異形の頭を目がけて剣を振り下ろす。

「チッ、ここじゃないか……」

 ぱっくり割れた頭はすぐさま元通りに戻った。切られた根もすぐ再生し、再びカインに振り下ろされる。
それらを紙一重で回避して飛び回るその戦い方は、見ているこっちは正直かなりハラハラするが、今はカインだけを気にしてやることができない。

 カインたちが戦っている異形の姿。
それは「元人間だったもの」だ。

 悲痛な表情でこちらに手を伸ばす、もはや人語も解さないソレ。恐らくは、成人男性。
肋骨が開いて骨が突出し、内臓が露出しているが、それすら異形の一部となり果てて、苦しそうにもがいている。
多分、実際に苦しいのだろう。
先ほどカインに顔面を割られていたが、異形はコアを破壊しない限り、殺すことはできない。異形の一部となったこの男性も、死ぬことができないのだ。

 生きながらにして体が奇形になっていくのは、相当辛いだろう。
男性の面影を残すのは上半身のみで、腹から下は赤黒い肉色の、タコのような形状に変化していた。それが地面や家の壁にへばりついて、根を伸ばしているのだ。

「危ないから下がってて!」
「……助からないの?」

 カインの言葉に、とっさにそう返していた。その瞬間、カインの表情がスッと抜け落ちる。

「アレはもう、ヒトじゃない」
「じゃあ……」

 辛そうで苦しそうな異形の表情が、胸に突き刺さる。
どう見ても助からないことは、異形を見たのが初めてでも、何となくわかった。

「お願い……殺して」

 この世界の人が、異形を恐れる理由も。

 カインは一つ頷くと、先ほどよりも一層激しく異形の全身を切り刻んだ。目にもとまらぬ速さだが、それでも異形の再生スピードには追いつけない。
しかし、切った場所が再生する、ほんの一瞬、異形の体内が外からでも見える。探しているのだ、コアを。

「ありました! 本体の背中側、左肩の部分です!」

 突然奥の方から少女の声が上がった。
カインはすぐさま狙いを定め、少女の示した異形の……男性の左肩の後ろを貫く。

 パキンッ! と、硬質なものが砕ける音がした。その瞬間、男性だった部分が、地を這うような低いうなり声をあげて倒れた。気味の悪い動きをしていた根の部分もピタリと動きを止め、力なく地面に広がる。
交戦を見守っていた一部の聖騎士団から歓声が上がる。

 そして異形は真っ黒な体をさらに真っ黒にして、ブスブスと音を立てながら、黒い煙とともに形を崩していった。

「この部分はもう無害だけど、浄化班が念のため周囲を燃やすから、離れよう」

 カインにそう促されたが、ナギカは逆に異形だったものに近づいて行った。
灰になったかのように異形は姿を崩し、その中心には割れた石が残った。異形のコアだった、黄色い石。

「それ、結構いい値段で売れるけど、貰ってっちゃう?」
「えっ、売れるの!?」
「異形討伐の証に、国が買い取ってるの。魔石として加工すると、アクセサリーにも魔道具にもなるし」
「そうなんだ……これはもう、異形になったりはしないの?」
「壊れたコアは二度と異形にはならないから大丈夫!」

 まりあのお墨付きをもらい、壊れたコアは持っていくことにした。
どうやらカインは捨てて行くつもりだったようなので、ナギカが貰うことに文句はないらしい。

 この世界では、人が死ぬことは日常なのかもしれないが、犠牲になった人がいたのは事実だ。
ナギカはその場で少しだけ黙祷をささげてから、石を手に取った。

「で、フィリアこんなところにいたのね」
「突然夜になっちゃって……ごめんね、まりあちゃん」

 そう言って、先ほどカインにコアの位置を教えた栗色の髪の少女は頭を下げた。
フィリアと呼ばれた少女は黒い装束に身を包み、大鎌を装備していた。
見る人が見れば死神かと錯覚する衣装であるが、彼女の右肩からは小さく可愛らしい純白の翼が生えているのである。天使なのか、死神なのか……

「あ、この子はフィリア。あたしと一緒に住んでる子。こっちは降臨者のナギカ、今日知り合ったの」

 まりあがそう紹介すると、フィリアは思い出したようにパッと手にしていた武器を魔法で消し、片翼はそのままに、黒い装束から一瞬で白いふわふわのワンピースに着替えた。
その姿になると、もはや天使にしか見えない。

「はじめまして、フィリアです。わ、わたし、あの姿じゃないと戦えなくて……」
「はじめまして、ナギカです」

 とりあえずのあいさつを済ませるのと同時に、バタバタと浄化班が到着した。
異形による騒動は、この付近一帯を焼いてようやく終了らしい。
未だにシャドウは多く湧いているが、聖騎士団が何とか抑えている。

「って言うかナギ、何で来たんだ。夜に歩くのは危ないって……」
「まりあに異形の事とか聞いたの。降臨者は感染しないって聞いたけど、あんたは大丈夫なの?」
「おれは、別に……」
「降臨者はシャドウに襲われないってことも聞いた」

 そう言った途端にカインは顔色を変えた。

「違う!」

 思ったより強い口調に、ナギカだけではなく、まりあやフィリアも硬直する。

「降臨者だからシャドウに襲われない訳じゃない!」
「そこ! 何してるんだ、早く逃げっ……」

 聖騎士団員が声をかけたこちらに、三匹のシャドウが向かってきているのが見えた。
そのシャドウの爪は長く、こちらに向かって振り下ろそうとしている。

 そう。

 シャドウはナギカに向かって、飛び掛かって来ていた。

 血飛沫が舞う。
フィリアが顔を背けた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 まりあの、悲鳴が―――

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絵が描ける。小説も書くしゲームも作るし乗馬もするよ。
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