アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

降臨者13

投稿日:2015年11月30日 更新日:

「あー、確認だけどー……」

 おずおずと、ブレイドはカインに伺った。

「マジで、屋上に降りる気?」
「うん」
「洗濯物が見える……」
「降りる」
「マジかー」

 ナギカがカゴから身を乗り出して地上を眺めたところで酔うだけなのだが、ブレイドはよほど目が良いのか、地上の詳細な状況も見えているようだ。

 あくまでも屋上に降りると言うカインの言葉に従って、ブレイドはセピアに指示を出す。セピアは大きな翼を広げ、着陸の姿勢を取った。
城の広場とは違い、建物が密集しているせいか、セピアの翼の風圧が地面から跳ね返ってきて色々なものが舞い上がる。そしてそれは、着地点であるバルコニーに干してあった洗濯物を直撃した。

「やっぱ狭いって!」
「ちょっ……飛んでっちゃう!」

 巻き上げられた洗濯物を手の届く範囲でキャッチしながら、慌ててセピアのカゴから降りる。
大量のタオルにシーツ……は、ブレイドが拾ってくれた。ナギカは吹き飛ばされてセピアの体やら背中やらに引っかかった服をせっせと集める。

 全員、何とか無事に着地したものの、ロープに干してあった洗濯物はすべて地面に落ちていた。屋上の床がそれほど汚れていないのと、外に投げ出された物がないのが幸運か。

 それにしても……洗濯物の大半は女性ものの服だった。しかも、ワンピースやフリル付きのシャツなど、結構かわいらしいものばかり。デザインも一応現代人であるナギカにも理解できる「ファンタジー過ぎない」衣服で、サイズもナギカくらいのもの……いや、若干ナギカより細目ではあるが。
ナギカが服の細さにこっそり悔しがっていると、カインも洗濯物を拾ったのかナギカに手渡してきた。それは、真っ白でレース飾りの入った、衣服としてはやたら小さめの、これは下着だ……この男は本当に、デリカシーがない!

「わぁ、なになに?」

 屋内に通じる扉から、一人の若い女性が出てきた。まぁ、自宅の屋上にドラゴンが着陸したのだから、騒ぎにならない方がおかしいが。
金色の髪の、年若い少女だった。今着ている服も白を基調としたかわいらしいワンピースで、そう、この洗濯物のような。降臨者は日本人と聞いていたが、この子が……?

「まりあ」

 ブレイドが声をかけると、事情を察したのか、少女はブレイドから洗濯物を笑顔で受け取って、カゴに放り込んだ。どうやらブレイドとは知り合いらしく、少女の表情がパッと笑顔になる。

「ブレイド、久しぶり。言ってくれれば片づけておいたのに」
「ごめん、急に寄ることになってさ……」

 そう言ってブレイドは後方に控えていたカインとナギカをまりあに軽く紹介した。
まりあは人好きのする笑みでにこりと軽く会釈し、ナギカからも洗濯物を受け取って、扉へ促した。

「立ち話もなんだから、中にどうぞ」

 両手いっぱいに抱えた洗濯物を取り込んで、まりあは室内を案内してくれた。二階建ての、白壁を基調とした家。
二階部分は居住スペースと、先ほど洗濯物が干してあったバルコニーで構成されているらしく、通されたのは一階にある小さなダイニングキッチンだ。すすめられた椅子に座り周囲を眺めると、目に飛び込んでくるのは室内のいたるところに飾られた服と大量のハンガー、そして棚に所狭しと並べられた衣類。

「洋服屋さん?」
「そう、ずっと夢だったの!」

 率直な疑問をぽつりとこぼせば、盆に人数分のカップを乗せたまりあが、全員にお茶を配りながら、興奮した様子で言った。

「夢だった自分のお店も持てたし、ここでの暮らしには満足してるんだ。ナギカはあたしが降臨者だから、話を聞きに来たのかもしれないけど、実は話せることはほとんどないの。あたし、記憶喪失らしくて」
「えっ?」
「記憶喪失っていうか、この世界に来てからのことがあんまり思い出せなくて……お店持つ前は何してたのか、さっぱり。ブレイドとはその時に知り合ったんだっけ?」
「うん、まあ……まりあは、カインのことは覚えてないんだっけか」

 少し気まずそうにブレイドが聞くと、まりあはきょとんとした顔でカインを見つめた。

「……初めてお会いしますよね?」
「いや、覚えてないのも無理はない。おれはこの店の前の持ち主なだけだよ」
「えっ、オーナー!? ごめんなさい!」
「ううん、もう譲ったんだ。今のオーナーはジークって人だよ」
「そうだったんだ……ごめんなさい、知らなくて」
「そのことは別に良いんだ」

 少しだけ空気が重くなった気がして、ナギカは出されたお茶に口をつけた。うん、緑茶だ。日本のお茶だ。

「まりあは結構この世界になじんできてると思うし、最近来たばかりのナギに色々教えてあげて欲しい」
「色々、かぁ……あたしが教えてあげられること、あるかなぁ?」

 まりあは不安そうな顔でナギカを見つめた。

「今は降臨者が私だけじゃないって、知れただけで良かったかな」

 素直な意見を伝えると、まりあはにっこり笑ってくれた。
記憶喪失という経緯は気になるが、見たところ生活に不自由もしていないようだし、この世界では降臨者という理由で生き辛いということはなさそうだ。その事実がわかっただけでも、まりあに会いに来た意義はある。

「そうだ! せっかくだから服を見ていきなよ。あたしもこの世界に来たときは着る服がなくて困ってたから、何着か持っておくといいよ」
「それは助かるけど、今お金持ってなくて……」

 言いながらチラリと期待を込めてカインを見るが、無言で尻尾を振られた。もしかしてこいつ、無一文なんじゃないだろうか。いや、前のオーナーって言ってたし、それはない、かな。
するとその隣からブレイドの手が上がった。

「金の心配ならしなくていいから好きなだけ選んでくれ。降臨者の支度金とか、生活費は基本的に全額国から出るから、遠慮いらないぜ!」
「そうなの!?」

 初耳だった。それにしても、生活費まで保証してくれるなんて……生活費ってことは飲食代も込みだよなと思い至った。

「カイン、私から食事代取ろうとしてたよね?」
「えー……じゃあいいよ。皿洗い、してもらってないけど」

 食事代の代わりに皿洗いを申し出て、皿も洗わずに出てきたのだが、今チャラになったらしい。
とにもかくにも、今着ているカインから渡された黒いローブの下は、学校指定の制服だ。違和感ありまくるったらない。

 まりあの店はほとんどが女性用の衣服で、サイズは若干細目が多いとはいえ一通りそろっているらしい。量販店のように大量生産品ではないためか、一点一点デザインもサイズも全く違う。
買い物に時間をかけるタイプではないが、こういうのは少し楽しいかもしれない。異世界デザインもあるが、普通に元の世界で着ても違和感のない服もある。数は少ないが、下着や靴、小物なども置いているようだ。一気にすべてをそろえる気にはなれず、とりあえずで下着を数点と、着まわせるように大きめのカーディガンとシャツ、ショートパンツと黒いタイツをもらうことにした。サイズが合うかドキドキしたが、試着してそのままお買い上げだ。良かった、ぴちぴちにならなくて。

 着替えた制服や買ったばかりの下着などは、ケイマから返してもらったノートの入っている紙袋にまとめて入れた。
今度別の店に寄る機会があれば、荷物をまとめておける鞄なんかが欲しい。手持ちの荷物はカインの店に置きっぱなしなのだ。

 会計はブレイドが名乗り出てくれた。運び屋としてアスターに勤めているから、降臨者の請求処理がしやすいらしい。
まりあとブレイドがお金のやり取りをしている横で、ふらりとアクセサリーのコーナーに立ち寄ったとき、一番の目的を思い出してまりあに聞いた。

「赤い石の、ペンダントとかは売ってない?」
「ペンダント? うちはアクセサリーとかは一緒に住んでるフィリアが別のところから仕入れているから、今あるのはこれだけかなぁ」

 まりあが言うペンダントのコーナーには、赤い石のものは置いていなかった。ソフィアは夢の中で「気に入らない人の手に渡ってしまった」と言っていたから、普通に売っているものではなく人の手にあるのかもしれない。やはり探し出すのは容易ではなさそうだ。

「ねえ、まりあはソフィアにどうしたら元の世界に帰れるって言われたの?」
「え、ソフィア……誰?」
「私はソフィアって人の願いを叶えたら元の世界に戻してもらえるって言われて、赤い石のネックレスを探しているんだけど、まりあはソフィアに会ったことすらないの?」

 それじゃあ、まりあはどうやって元の世界に帰るつもりなんだろうか―――

 その時、突然室内が暗くなった。

降臨者12」← →「降臨者14

ダブルレクタングル用

ダブルレクタングル用

-
-,


コメントを閉じる

comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

HN:オト


HN:オト
好き嫌いの激しい雑食性偏食家。天使と青色1号が好物。脳みその主成分がSFと人外とファンタジーで出来ている。
絵が少し描けます。小説も書きます。
月の住人と同居中。創作国チョコミン党きのこの山派メーデー民ゲーマー。乗馬はじめました。
最近youtubeにゲーム実況動画投稿中。

Twitter@oto05i メール Skeb

ブログ村

応援クリックをお願いします。
にほんブログ村 イラストブログへ  にほんブログ村 うさぎブログへ

Amazon

オトさんへの支援

検索

月の使者

B.B.