アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

「3.14」

投稿日:2012年3月1日 更新日:

エルーニャ

置いていかれたエルーニャの独白。「2.14」の後日談。

 落ち込む日々は案外長続きしなかった。
そういう自分を自覚するとき、エルーニャはやはり自分は人間ではないのだな、と思う。人間はもっと、複雑に思い悩むはずだから。
しかし、別に自分が人間じゃないからといって、落ち込んだりはしなかった。
そこまで深い感情を、人間に対して抱いているわけではないからだ。

 そのときのエルーニャの中に、まりあの存在はすっぽりと抜け落ちてしまっていた。

 長いこと一緒にいたような気もするが、もうどうでも良いことだった。エルーニャにとっては、その程度の人物だったのだ。
実際そんなに長く一緒にいたわけでもない。
カインも、もういつもの調子に戻っていた。

 片付けよう。
まりあのいた場所を。

 忘れたくてそうしたわけではなかった。
ただ、もういない人物のために、スペースを空けておくのが面倒だと感じたのだ。

 まりあが持ち込んだものは、ほとんど無かった。
まりあはここにあるものだけで生活していたし、物欲も無かったから、私物らしい私物はほとんど持っていない。
唯一の私物といえるものは、彼女がこの世界に来たときに持っていたという、小さなかばん一つだけだった。

 エルーニャはかばんを掴んで、そのままゴミ捨て場まで歩いた。
かばんは、軽かった。今のエルーニャの中の、まりあの存在と同じように。

 ゴミ捨て場に着いてから、ようやくエルーニャはかばんの中身をあけて見ようと思った。
たいしたものは入っていないだろうと、わざわざ生ゴミの上でかばんをひっくり返した。
中から出てきたのは、やはりたいしたものではなかった。いくつかの文房具と、小さなメモ帳のようなもの。

 よく見れば価値のあるものなのかもしれない。しかしそれらを拾い上げてみる気にすらならなかった。
やはりもう、エルーニャの中でまりあの居場所は消えていたのだ。

 最後にぽとりと、かばんの底から何か落ちてきた。
それは見覚えのある箱だった。小さくて、きれいな箱。
何の箱だったか、もう思い出せなかった。
唯一それだけが気になって、拾い上げてみた。

 ゴミの汚液にまみれた包装を破ると、中から赤い箱が出てきた。
なんとなく、それにも見覚えがあった。箱のふたを開けてみる。

 エルーニャは、ふたを開けたことを後悔した。
思い出してしまったのだ。それが、何のための箱だったのか。

 これを作っていたときの、まりあの顔を。

 もう甘い匂いはしない。

 その茶色い物体には、白いもので何か文字が書かれていた。
茶色いのも、白いのも、食べ物なのだから食べられるはずだ。
しかし、食べ物なのに、どうして文字を書くのだろうか?

 その白い文字は、おそらくまりあの国の言葉で書かれていて、エルーニャには読むことはできなかった。彼も、同じだろう。
たとえこれを今渡したところで、まりあが文字を翻訳しなければ意味は無いのだ。

(どうして、言わなかったの…?)

 エルーニャは手にしていた茶色い塊を、箱ごとゴミの山に向かって投げつけた。
板状の物体は、あっけなく割れてゴミの山に埋もれた。

 時間になれば、ゴミ拾いの子供たちがやってくる。
あの茶色い塊は、腹をすかせた子供たちに食べられるだろう。
きっと、欠片も残らないはずだ。

 エルーニャがあの時感じた苦い味は、もうしないだろう。
その味が何なのか、あの時のまりあしか知らないのだから。

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好き嫌いの激しい雑食性偏食家。天使と青色1号が好物。脳みその主成分がSFと人外とファンタジーで出来ている。
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最近youtubeにゲーム実況動画投稿中。

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