アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

「苦手克服大作戦」

投稿日:2020年10月18日 更新日:

カインとカルマとアキ

三人パーティなのに、戦闘員一人だけっておかしくない?

「見晴らしが良いぜ~……うへぇ、相変わらず、ウジャウジャいるなぁ……」

 平原の全貌を見渡せる位置に立ち、アキはそうつぶやいた。
視線の先には、我が物顔で平原を闊歩する多種多様な魔物の姿。後ろを振り返ればうんざりした顔でアキを見やるカインと、その更に後ろには、何も考えずにボーっと立ち尽くすカルマの姿。

 アステリア東部に広がるコルト平原には、厄介な魔物が出る。
魔物の中に厄介ではない奴は居ないのかもしれないが、コルト平原に限っては……とにかく見た目がおぞましいモンスターの巣窟と言っても良い。
近くに森がある影響か、獣系の他にも虫系やら粘液系の魔物が多い印象だ。森の中では草木に紛れて気にならないその容姿も、平原では不気味さが際立つ。

「……何でおれ指名なの?」

 文句を言いつつ、カインは愛刀の薄紅を構えた。
遮るものがない平原は、立っているだけで魔物の方から寄ってくる。特にカインはその見た目が小さくて虚弱であるため、魔物にとっても狩りを仕掛けるのにちょうど良い獲物として認識されてしまうのだろう。見た目詐欺なのだが。

 コルト平原を住処とする魔物は、総じてレベルが高めである。
見晴らしの良い、見た目は初心者用フィールドに見せかけて、アステリアからの行き来を困難にさせる地獄のフィールドだ。
コルト平原を通りたくなければ、日数をかけて南側から大回りで行った方が、財布にも命にも優しい。

 見通しの良い平原は、特に食品を主な積み荷とした荷車が魔物から狙われやすく、酒場の掲示板でも魔物の討伐依頼が頻繁に出ている。
酒場の掲示板には一般戦闘員向けの依頼の他に、難易度の高い魔物の討伐依頼など、そこそこ腕の立つ者を指定した依頼が入ることがある。無駄な怪我人を出さないようにという配慮だ。酒場の人間が依頼を受ける人物を厳選するため、依頼の達成率も高い。その代わり、用意しなければならない報酬額もべらぼうに高い。
酒場でバーテンダーをしているカルマは、良くカインの元へ依頼を持ってくる。一人では討伐の厳しいドラゴン系や、人間が相手をすると怪我人どころか死者が出かねないような大型案件をホイホイ引き受けるのだ。

 アステリアにとって、コルト平原は他国との貿易に使う通り道のようなもの。なので、それこそ聖騎士団に依頼した方が良い気もするが、聖騎士団は腐っても国家組織なので、手続きが面倒臭く腰が重い。酒場で顔なじみの行商人など、はなから聖騎士団になんて頼まず酒場へ依頼に来るほどに。
カイン一人が出た方が話が早い。そんな訳で今日も単騎出陣である。
お供のカルマとアキは役に立たない。なぜならどちらも非戦闘員だからだ。

「お、来た来た。流石に獣タイプは動きが早いなぁ~がんばれチビ助」
「お前もケダモノタイプだろ」
「んなことないってぇ。お姉さまたちの夢にちょっとお邪魔するだけの、紳士かつ純真な淫魔さまだぜ」
「……淫魔なのに純真?」

 狼の姿をした黒い魔物が群れで押し寄せる。ヤバくなったら逃げるつもり満々で黒猫の姿になったアキを茶化して、カインは魔物の群れに飛び込んだ。
とたんに上がる悲鳴。もちろん、魔物の。

 知能の高い獣型の魔物は、同族の悲鳴を聞くと相手の強さを悟り、途端に逃げに転じる。ある程度派手に暴れれば、無謀にも突っ込んでくる魔物は居なくなる。ただし、知能の低い魔物は除いて。

「はぁ~、やっぱ虫ってバカなんだなー」

 獣型の魔物が逃げ去る中、カイン目がけてまっしぐらな魔物は巨大バッタや大ミミズにワームと言った虫系モンスターが主だ。足の数は多すぎたり逆に無かったりと、様々なタイプの虫たちがそれぞれ独特なスピードで迫ってくる姿は、今夜確実に夢に出るだろう気持ちの悪さだ。虫に這い寄られる悪夢を見るくらいなら、アキが出てくるドピンクな淫夢の方がまだマシである。
思いっきり顔をしかめて、カインは無詠唱で特大の火炎魔法を放った。

「ピギィィイィィッ!!」

 屠殺される子豚のような悲鳴を上げて、炎に包まれた巨大な虫がのたうち回る姿もまた気持ちが悪い。

 残念なことに、虫系モンスターはその腹の中に卵塊を抱えているものが少なくない。虫系は見た目で雌雄の区別が難しく、親が死んでも時間経過で、たとえ無精卵だとしても幼虫が孵化する特性を持つ。しかもやたらと成長が早い。確実に親子ともども駆除する方法は、卵を抱えた腹の中身まで丁寧に焼き尽くすこと、これに尽きる。
デカイうじ虫一匹を細切れにして安心していたら、翌日うっかり中にいた卵から数百匹がめでたく誕生して、(虫だが)鼠算式に増えていく悪夢をそう何度も経験したくはない。

 無言で、しかも淡々と、近づいてくる虫どもを丸焼きにしていくカインの目は濁って死んでいた。
とにかく、見た目が苦手だ。見るのも嫌なのに、魔法を当てるには見なければならない。見たくもないのに。

「なにもそんなに嫌がらなくても~」

 平原のあちこちで火柱が上がり、たまに落雷しているのを見てカルマがつぶやく。
アキもカルマも、カインが大の虫嫌いという事は知っている。それでも手伝おうともしないのは、彼の火力が虫どもの迫りくる勢いを圧倒的に上回っているからだ。完全にオーバーキルだし、見える位置にいる敵なら、彼はその場から一歩も動かず倒すことが出来る。

 統率のとれた獣系のモンスターと違い、倒しても倒しても虫たちは森の奥からぞろぞろと這い出して来る。
今日は特にワーム系が多く、奴らは足もないのにおぞましく体を波打たせて素早く這いずり移動し、近くにあるものは何でも手当たり次第に噛みついて飲み込もうとする。炎に焼かれて黒焦げになった同胞の死骸を喰いだした時は、さすがのアキもドン引きした。悪魔ですら、共食いはしない。

「あの森邪魔だな……焼き払うか……」
「おい! 地形は変えるなよ!」

 ボソッとカインが恐ろしい事を言うので、アキはカインに釘を刺しておく。この男は以前、服に入った虫に驚いて山一つ吹き飛ばした前科がある。

「おいおい、何でこんなに際限なく湧いてくるんだ? 繁殖期か??」
「そうなのかも……もっとデカい親玉が居そうだな」
「ねぇカインくん、繁殖期って何?」
「……そろそろ性教育が必要かもしれないな」

 ウジ虫をそのまま大きくしたような外見。頭に目は無く、肛門のようにすぼまった口からギザギザに生える牙を持つこのワームは、噛まれれば麻痺毒で動けなくなり、斬ればその体液が粘液としてまき散らされ、体の中には無数の卵を抱える、とにかく見た目も生態も良いことが何一つとして無い迷惑な魔物だ。体液自体に毒性は無いが、白い粘液はビジュアルがもう気持ち悪いし、粘り気があるので踏むと足を取られる。あと、かなり滑る。

「……あぁ、気持ち悪い! あの森焼きたい!!」
「落ち着いてよカインくん」

 カルマがなだめるが、カインはますます仏頂面になった。そもそもカインが虫嫌いになった原因を作ったのはカルマなのだが……カルマは覚えていないので、悪気はないのだろう。

 倒しても倒しても森から這い出るワームに、いい加減うんざりしてきたカインは、ワームが近づいてきたところをまとめて焼き払った。その際、ひときわ大きな個体がなかなか灰にならずに激しくのたくった。勢いよく暴れる巨体を、カインはつい、いつもの癖でまっぷたつにした。

「あっ……」

 魔法で焼いたとは言っても、「外側カリッと、中は半熟」状態だった虫の体液が、突然半分に切られた生卵のように勢いよく降り注ぐ。
三人は仲良く白濁に濡れた。

「あぁ、もう……最っ悪っっ!!」
「うわー、ベタベタするよー!」

 髪も服も靴もぐちゃぐちゃだ。しかも水ではなく、モンスターのドロッとした濃厚な体液である。匂いもかなり酷い。

「オエェ……」

 黒猫の姿になっていたため服ではなく、自前の毛皮をまとっていたアキは思わずえずいた。そして、気が付いた。
あれほど真っすぐこちらに向かってきていたワームが、急に方向を見失ったかのように勢いをなくして立ち往生し、しばらくすると森の中へ引き返しているようだった。

 カインはハッと気づいてカルマをうかがった。

「カルマ、そういえば今回の依頼は報酬前払いで、金貨と他に何か受け取ってたよな。何を貰ったんだ?」
「え? 中身は見てないや。お守りだと思ったんだけど……」

 そう言ってカルマがポケットから取り出した体液濡れの小袋を受け取り、中身を見ると、そこには琥珀のような蜜色をした小石が入っていた。
カインは思わず小石を掴んで遠くへぶん投げる。小石は最後に小さくきらめいて、見事森の中へ消えていった。もう二度と会う事はないだろう。
アキはカルマに詰め寄った。

「お、おまっ……! あれ、虫寄せじゃねーか!!」
「虫寄せって何?」
「……特定の魔物のフェロモンを固めて石にしたやつだよ。匂い袋みたいな、俺らにとってのマタタビみたいなもん!!」

 異常なほどワームが寄ってきていたのは、カルマが虫寄せを持っていたからだった。魔物の体液でコーティングされて小石から発せられるフェロモンが途絶え、ようやく効果が無くなったのか、怒涛のワーム地獄は終わりを告げた。

「後で依頼人殴りに行こうぜ。どうせケイマだろ?」
「すごいねアキちゃん、どうしてわかったの?」
「こんな物騒なもの持たせて酒場でカインを指名する命知らずは、アイツくらいしか居ないだろう……」

 宮廷魔術師としてしっかり仕事をする彼は、使えるものなら何でも使う合理主義者だ。たびたびカインと衝突している姿も良く目にする。

「でもケイマは、カインくんのためにって依頼してくれたんだよ?」
「……もしかして、チビ助の虫嫌いを治すために……?」

 わざわざ虫寄せを持たせて、逃げ場のない平原で大量の虫に襲わせる……ちょっとショック療法が荒すぎませんかケイマさん?
虫嫌いじゃなくても、虫嫌いにさせられそうな勢いで虫にたかられたんですけど。

 平原を見渡せば、こんがり焼けた虫の死体がゴロゴロ転がる地獄絵図。しかも、最終的にその虫の体液をベットリ浴びてしまっている。
カインの場合、より虫嫌いが進行しそうだ。案の定、彼の尻尾は虫の体液に濡れていても尾先を膨らませて不快感をアピールしている。もうカルマとアキの会話に参加する気力すら残っていないようだった。放っておけば、今ここで汚れた服を脱ぎ捨て全裸になりかねない。

「……もうむり、帰る。シャワー浴びたい……」

 この後、白濁に濡れた男三人パーティはバスルームへ直行した。

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好き嫌いの激しい雑食性偏食家。天使と青色1号が好物。脳みその主成分がSFと人外とファンタジーで出来ている。
絵が描ける。小説も書くしゲームも作るし乗馬もするよ。
月の住人と同居中。創作国チョコミン党きのこの山派メーデー民ゲーマー。youtubeにゲーム実況動画投稿中。

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