アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

「双子の妹」

投稿日:2010年6月11日 更新日:

双子とジゼル

何も知らされなかった妹の独白。

 天界は美しいところだ。地上にある不浄なものは何一つ、塵や埃、悪意でさえも存在しないのだろう。
天界の中でも最も暗がりにあるこの塔ですら、醜いものとは無縁である。

 ポニーテールにした長い桃色の髪を持つ、少女の姿をした天使―――ジゼルは焔色の六枚翼を折りたたんで塔のある浮遊島に降り立った。

 塔の入り口には見張りの能天使が二人いる。彼らは本来ならジゼルと同じく地上におもむき、悪魔や魔物を一掃する役割を担っているはずだが、この塔の警備員として配属されたのであろう。
もちろん、この塔に好き好んで近づく天使など、自分以外にいるはずがない。
警備とは建前で、外の敵を警戒するのではなく、内側にいる者たちを監視しているのだ。
外に出さないために。

 ジゼルは見張りの天使達に軽く会釈をすると、入り口の門を開いた。
天使達も心得たもので、本来なら部外者は立ち入り禁止とされているこの塔に、ジゼルが入っても文句は言わない。

 もっとも、ジゼルの階級を考えると、能天使ごときがとやかく口を出せるはずもないのだが。

 暗く長い螺旋階段を上った先は牢獄だ。
しかしここに捕らわれている双子にとって、ここが世界であり楽園であった。場所は関係がないのだ。

 装飾の一切ない、重苦しい鉄の扉を開けると、わずかにそこだけ光が溢れている気さえした。
扉に鍵はついていない。最初から。

「あ、ジゼル!」

 金色の目の少年がこちらに気付いて微笑む。
それにつられて振り向いた同じ顔の少年の目は緑色だった。同じくこちらに気付くとふわりとした笑顔を向けてくる。

「アベルとカインちゃん! 久しぶり!」

 今までの外向きの仮面を脱ぎ捨てて、笑顔で双子に駆け寄った。
双子の名前は瞳の色が緑の方がアベル。金色の方がカインと言った。しかしそれは偽名である。
双子の本当の名前を、ジゼルは知っていた。だがそれを口にすることは許されないのである。たとえ他に聞く者がいなかったとしても。
それが、この楽園を永遠に護るための唯一の方法だったから。

「はい、二人にあげる」

 ジゼルが両手を前にかざすと、空間が歪み、真っ赤な薔薇が七本現れた。
空間を操り物体を召還する魔法はジゼルがもっとも得意としている上級魔法の一つだ。
薔薇は美しく整えられ、トゲもキレイに取り除かれていた。

「うわぁ、キレイ! ……これ、どうしたの?」
「ソフィエルさんのお庭からいただいたの!」

 花好きな彼女の庭はいつも色とりどりの植物が咲き誇っている。外には滅多に出られない二人のために、薔薇を数本持っていって良いかたずねれば、彼女は快く承諾し、譲ってくれたのだ。
生憎この部屋に花瓶はない。ジゼルは自分の部屋から空の花瓶を呼び出すと、テキパキと水を張って薔薇の束を挿した。花瓶はこの部屋に置かれた唯一の家具、小さなキャビネットの上に置くことにした。

「これで少しは華やかになるわ」
「ありがとうジゼル」

 アベルはにこやかに礼を述べた。心からの笑顔だ。
しかしジゼルは不満だった。アベルの態度が、ではなく、この部屋に不釣合いな程きらびやかな花瓶と、豪華で美しいだけの薔薇の花が不満だった。
この部屋には鏡もベッドもテーブルさえもない。
格子のついた窓が一つと、二人が寝るための毛布が一枚置かれているのみだ。

 ずっとここで過ごしてきた二人はそれを悲しく思うことはないだろうが、天界のすべてを知っているジゼルにとっては許しがたいことだ。
キレイな花を貰って二人は上機嫌にはしゃぎあう。
こんな事でこれほど喜んでもらえるのなら、毎日でも花を届けてやりたいと思った。

(実際は、無理だけど……)

 天使のヒエラルキーの中でも最上位にいるジゼルは何かと仕事が多い。
少女の姿をしてはいても、れっきとした断罪の天使である。今日訪れたのも数週間ぶりでのことだ。
誰かに頼めれば毎日でも花を届けてやれるだろう。
しかしそれは出来ない事情があった。

 双子とジゼルは同じ父親を持つ兄妹である。
しかし、表向きは他人ということになっている。理由は双子にも、ジゼルにも、知らされてはいない。
偉大なる八人の神のうちの一人である父を、ジゼルは見たことがなかった。これから先も会う事はないだろうなと薄々感じ始めている。

 天界において家族と言う絆は元々薄く、天使達はそれぞれ生まれ持った力によって振り分けられる「階級」に縛られ一生を過ごす。
ジゼルは天使達の中でももっとも至高とされる六枚の翼と高い戦闘力を買われ、九つの階級のうちの最上位である熾天使(セラフ)の位を賜った。
しかし兄であるはずの双子の背には翼はなかった。それゆえ二人には最下位である天使(アンジェロ)の位さえ与えられなかったのである。

 まるで存在そのものを隠蔽するかのように、二人はこの塔に隔離された。
父がもし神ではなかったのなら、殺されていたのかも知れない。だから見たことの無い父親を少しだけありがたく感じていた。

(アベル、カインちゃん……待っててね。いつか必ず、ここから出してあげるから)

 ジゼルは決意を心の中で繰り返した。

 しかしジゼルは知らなかったのだ。
双子が犯した罪や、背に翼がない理由を。

その時が訪れるまで。

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好き嫌いの激しい雑食性偏食家。天使と青色1号が好物。脳みその主成分がSFと人外とファンタジーで出来ている。
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