アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

「双子が生まれた日」

投稿日:2010年11月23日 更新日:

双子とイアル。

 天界の片隅で、神に愛された女は双子を産んだ。

 女の名はイヴァと言う。彼女は天界にいてはならない人物だった。
だから、出産の時、彼女のそばには誰もいなかった。たとえ誰かがいたとしても、彼女の未来は変わらなかっただろう。
彼女は双子を産んで死ぬ運命にあった。

 扉一枚隔てた部屋で、七大天使のうちの一人であるイアルは静かに目を閉じる。
陣痛に耐える彼女の声は悲痛だ。そして異常だった。
彼女の悲鳴が途切れた時、とても弱々しい小さな泣き声が聞こえてきた。
産声を聞きつけてやってきた天使達は、その凄惨な場面を見て愕然とした。

 イヴァは息絶えていた。その腹から飛び出しているのは、血に濡れた赤子の手と翼だった。

 ずるりずるりと腹から這い出るその手や身体は既に大きく、あっという間に通常の赤子の体長から幼児ほどの大きさに成長した。
それは人間から見たら奇妙な光景であったかもしれない。
瞬く間に金の髪や羽が生えそろい、脆い手足が通常の強度をそなえるほどの機能をもつ。
双子は産道を通らず、母親の腹を突き破ってこの世に生を受けた。

 ぱちりと開いた目は既に理性を備えた意思を持つことを表していた。それと同時にわかった事実。

 一人はまばゆい光を放つ、透けた六枚の翼を持つエメラルド色の瞳をしていた。
そしてもう一人は……

「レッドアイズ……!」

 誰かが、驚いた声でそう言った。
四枚の翼に獣の尾を持つその赤子の瞳は真紅であった。

「なんてことだ……」

 それは古に存在した、偽りの神の生まれ変わりであることを意味している。
天使達は戦慄した。これは本来あってはならない事だ。

 偽りの神を滅ぼした神の子が、偽りの神の生まれ変わりだったなどということは!

 動揺する天使達の中で冷静だったのは自分だけだった。
なぜなら、こうなることは既に定められていたのだから。

 生まれた双子はむやみに泣き喚くこともせず、二人で母の骸をただただ眺めていた。やがて母の身体が血の痕を残して、白い砂へと変わり果てるまで、ずっと。
イアルはその血濡れの身体をまとめてタオルで包み込むと、世話役に当てられた者に二人を託す。
残った二人は、このことをどう処理すれば良いのか判らず、ただおろおろするばかりだった。

「アリゼロス」
「……はい」
「アルゲウス」
「は、はい」

 名を呼ばれたことで、多少落ち着きを取り戻した二人に指示を出す。

「二人とも、今日ここで見たことは誰にも告げるな。神王マーカスには、私が直接報告しよう」

 マーカス……あの双子の父親に。

 アリゼロスは何か言いたそうだったが、渋々といった様子で頷いた。
しかしここで口止めをしても、時間稼ぎにしかならないことは判っていた。
天界でもイヴァが身ごもっていた事は知れ渡っていたし、何よりあの双子の魔力は凄まじい。勘の良い者ならおそらくすでに気づいているだろう。
その魔力が、ただの天使が持ちえるはずの無いものだということに。

「マーカス様に、レッドアイズの事も報告するのですか?」

 静かな声で聞いてきたのはアルゲウスだった。

「当然だ」

 もっとも、報告するまでもなく、マーカスはすでに知っているだろうが。

 アルゲウスが本当に心配しているのは、報告した時、マーカスはレッドアイズを忌み嫌って処分してしまうと思っているのだろう。
だが、その心配は杞憂に終わる。
今日産まれた双子こそが、マーカスたち八柱神の世界の鍵となるのだから。

「心配しなくともあの双子は処分されないさ。ただ、産まれていないことになるだろうが」

 真実を伝えれば、あからさまにホッとした顔で、アルゲウスは無言で頷いた。
彼は、天使としては優しすぎる。
そうして二人の天使たちは、こちらに向かって一礼すると部屋を後にした。
白い翼を広げて、それぞれの持ち場へと飛び立つ二人を見送り、ひとつため息をついた。頭が痛い。

 指示通り二人は、双子のことに関して誰にも口を割らないだろう。
マーカスのただ一人の妻であるイヴァの存在は、天界の住人にとって触れたくない話題の一つだ。
きっとイヴァの死も、深く語られることは無いだろう。
しかし双子はどうだろうか? マーカスは、どういった発表をするのだろう。

 過去に八柱神に殺された偽りの神……この世界と異なる空を持つ世界から来た者、通称イソラと呼んでいる者たちが、この世界に肉体を伴なって降りたとき、その瞳は赤く染まる。

 再びため息を吐いた。
痛むこめかみを押さえてテラスへのドアを開放する。

 部屋に積もった白い砂はサラサラと音を立てて、彼女の痕跡ごとあっという間に消え去ってしまった。ただそこには乾いた血の痕のみが残った。

 狭い部屋のわりには広く作られたテラスは、翼を持つ天使達にとっては出入り口と同じ意味を持つ。
幾つもの浮遊島で構成された天界で、翼を持たないイヴァは、この部屋で一生を過ごすことを予感していただろうか。
ドアにも窓にも鍵など無いのに、翼が無ければ幽閉と同じだ。

 イアルは仲間内からも嫌われている黒い翼を広げて、彼女の部屋を後にした。
……きっとここへは二度と来ないだろう。

 マーカスへの報告のために、天界で一番大きく煌びやかな宮殿の立ち並ぶ浮遊島を目指す。
視界の隅にイヴァのいた浮遊島と、もう一つ、天界にそぐわない孤立した塔が見えた。いくつもある浮遊島の中で、ここは最も中央の宮殿から遠く、天界の中にあっても薄暗くすら感じる。
その浮遊島の中央にそびえたつのはひょろりと高い塔である。
それは仲間内から皮肉を込めて『端の塔』と呼ばれていた。天辺付近に格子のはまった窓が一つだけのシンプルな造りだ。入り口も一番下に一つしかない。
そこを厳重に守るのは五人もの天使たちだ。

(ご苦労なことだな……)

 目には見えなくとも、この塔自体に強力な結界が張られている。それも、見張りなど必要ないほど強力なものだ。

 誰もが口には出さないが、ここは牢獄だ。
自らの存在を至高と考える天界の人々にとって、仲間内から罪人が出るなど触れたくもない話題なのだろう。
そう、この塔に閉じ込められているのは大罪人である。

 サタナエル

 彼はほんの少し前まで、七人の大天使のうちの一人だったというのに。

「馬鹿なことをしたな、サタナエル」

 聞こえるはずもないだろうが、つい呟いてしまった。
だがイアルは疑問に感じていた。

 彼の、サタナエルの犯した罪。
マーカスの前に天界を治める神王となった八柱神の一人、モーゼを殺したことだった。
しかし彼の口は堅く、未だになぜ殺したのかはわからない。
モーゼの代わりに神王となったマーカスも、サタナエルの話題は避けるので聞くことが出来ないのだ。

 八柱神には秘密が多い。
とにかく今は双子のことを報告するのが先だと、晴れない気分のままマーカスの下へと飛び立った。

 その数日後、牢獄の結界を破り、サタナエルは天界から姿を消した。

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好き嫌いの激しい雑食性偏食家。天使と青色1号が好物。脳みその主成分がSFと人外とファンタジーで出来ている。
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