アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

「人でなしの憂い」

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カインとカルマ

回復魔法について。

 カルマが怪我をした。
魔物が振り回した腕の後方にいたカルマが、うっかり爪に引っ掛けられて肩から出血しただけだ。
命に別状はないのだが、派手に血が出て驚いてしまったのだ……カインが。
犯人である魔物は斬り刻まれて木っ端みじんになった上に、魔法で焼かれて秒で灰になった。思いっきり八つ当たりである……かわいそうに。

「出し惜しみしないで使えばいいのに」
「あんな目立つ場所で上級魔法なんて使ったら怪しまれるだろ。あと動くな、集中できない」
「はぁい」

 血で汚れた服は、魔物の爪に裂かれてボロボロになっている。後で洗濯して、繕ってもらわなければ二度と着られないだろう。服は後でカルマの妹たちに直してもらうとして、怪我の方は自然治癒に任せていたら治るのに数ヶ月を要するような深い切り傷となっていた。カルマはあまり痛みを感じていないが、えぐられた肉ははた目から見ると相当痛そうだ、との事。

 カインはカルマの傷の手当てをしようと、文字通りその部分に手を当てる。
傷に暖かな青白い光が集まると、あっと言う間に裂けてえぐれた肉が盛り上がり筋繊維が再生する。出血が止まり、薄くピンク色の新しい皮膚が出来ると、そのまま傷跡すら何もなかったかのように「元通り」再生するのだ。
見慣れないとなかなかに奇妙な光景だが、ダラダラと血が噴き出す傷口を見ているよりはよっぽど良い。

 治療魔法のヒールは、術者の命を削った魔力で患者の自己治癒能力を急速に促す、いわば自己犠牲の魔法であるが、カインのように寿命の存在しない長命種(メトセラ)が使えば、リスク無く他人の怪我を治療し放題となる。

 しかも彼は魔法を使うのに詠唱を必要としない。
ただの人間がこれをやると普通、寿命か肉体の一部が持っていかれる。

「カインくんがいれば、ケガも怖くないね!」

 カルマの一言に、カインは盛大にため息をついた。

「……あてにするな。回復魔法は苦手なの」

 怪我をしていた部分をペシッと叩かれた。もう傷跡すら残っていないので、痛くはない。

 カルマは魔法が使えないし馬鹿なので、カインが言う回復魔法が苦手という意味が良くわからない。あからさまに「???」マークを飛ばすカルマを見て、カインは再びため息をついた。

「昔の話なんだけどな……」

 ちょっとした思い出話だ。
カインの口から過去の話が語られるのは珍しい。カルマは聞き入った。

「昔、ジェドっていうおっさんの軍人と組まされたことがあって……そいつがまあ前線大好きでよく怪我をするんだ。傷は男の勲章とか言ってたけど、気になるだろ?」
「怪我が?」
「そう。目の前でブシャーって血を噴き出してやられるもんだから、こっちは気が気じゃないんだよ。ジェドは人間だし、軍人としては強かったけど、当たりどころが悪かったら死んじゃうんだから」

 当時のこと思い出しているのか、カインの口からため息がこぼれた。
どうやらよっぽどヤンチャだったらしい、ジェドという男は。

「それである日、本当に大怪我して……本人は大丈夫だって言うんだけど、いろんな人間の死に様見てきたおれから見たら、本当にヤバかったんだ」

「血ィ、もう止まったろ……大丈夫っつってんだろうが」
「馬鹿なのか!? 止まってない! 傷が太い血管にまで達してる、このままじゃあんた本当に死ぬぞ!!」
「……ウルセェなぁ……」

 ジェドは意識が遠のいているのか、視線が定まらなくなっていた。
何かこの男を繋ぎとめるものは無いのか、カインは必死に呼びかける。

「あんた、家族は!? 家に帰れなくなっても良いのか?」

 家族、と聞いてジェドの視線がピタリと定まる。
思い出しているのか、あるいは置いて逝くことに引け目を感じているのか、ジェドの表情は暗かった。

 しかしカインはその家族に、ジェドの未練を感じ取った。
ジェドの左手の薬指に、金のリングを見つけたからだ。

「生きたいって言え! 命乞いをしろ! その願いを叶える力なら、ここにあるぞ!!」
「……っ、……!!」

 ジェドは長い時間迷ったが、結局カインの手を取った。
癒しの力は瞬く間にジェドの傷を癒す。致命傷は塞がっても、流れた血はすぐには戻らない。急速に再生する肉体の負荷に耐え切れず、ジェドはそのまま意識を失った。

 代償は、左手の薬指。金のリングごと持っていかれたが、もともと家庭を顧みないジェドは指一本で嘆くほど人間が出来てはいなかった。

 問題が起きたのは、その翌日、ジェドが目覚めた時の事。
跡形もなく嘘のように塞がった傷跡、なぜか戦闘に出る前より調子の良い身体。
知らぬ間にボロ宿のベッドを独り占めしていたジェドは、不審に思いながらも血と汗と砂埃にまみれたままになっていた体をリフレッシュさせようとバスルームへ向かった。

 バスルームに備え付けられた鏡を見て、ジェドは愕然とする。
生粋の軍人であったジェドは、身なりに気を配る事は最低限で済ませるような男だった。職業柄怪我をする事もあり、傷跡が残ることも多々ある。顔や体中の消えることのない傷跡は、ジェドにとってはまさに男の勲章でもあった。ひきつれ、ケロイドになり、体中どこもかしこも傷跡だらけだったはずが。
それが、全て綺麗に消えていた。

「……は?」

 状況を飲み込むのに時間がかかる。
鏡の中にいたジェドは、ジェドが知る自分自身ではなかった。
しかし、鏡がおかしくなった訳でない事は自分の腕や胸を見て気付く。やはり鏡を通さずに見たジェドの身体のどこにも、傷跡などは存在していなかった。
唯一、傷と呼べるものは左手の薬指が欠けている事だ。しかしそこはまるで生まれた時から存在していなかったかのように、切断面はつるりとしていて違和感がない。

 更に奇妙なことが我が身に起こった。ジェドは長年の不摂生からEDを発症しており、ここ数年元気に勃ち上がる自身を見たことが無かった。しかし今までの時間を取り戻すかのように、ジェドのジェドは朝っぱらから元気に勃起していた。過去に見たことが無いほどの角度と膨張率だった。朝立ちにしては元気すぎる。

 半ばやけくそになってシャワーを浴び、ジェドはカインの元へ走った。
とんでもないスピードが出た。体が軽かった。今まで経験したこともないほどの健康体になってしまっていた。

「てめぇ! このチビ!!」

 勢いよく入室と同時に繰り出した全力の拳は、不意を突いたにもかかわらずひらりとかわされた。
カインはジェドの攻撃を見ることもなく避け、ふわりと近くのテーブルの上に避難した。

「なんだよ。治してやったろ」
「頼んでねぇトコまで治しやがって!!」
「……何の話だ? 細かい調整がめんどくさいから、とりあえず全部治しただけだぞ」
「それは頼んでねぇって言ってんだ!!」

 ジェドは怒鳴りながら無茶苦茶に拳を振り回した。同じ任務についていたヨシュアという男が止めに入るまで暴れ続けた。

「何がそんなに気に入らないんだ?」
「……」

 ジェドは何も答えなかった。

 カインはますますわからなくなった。
傷跡なんて無い方が良いに決まっている。体だって健康体なのが一番だ。
治癒の魔法とは、その生物のあるがままの状態に戻すこと。本来は数年単位で行われる自己修復を早めてやっているに過ぎない。切断されたり、老化したものを戻したりといった事は出来ないが、失われたものは治癒の範囲でなら回復が出来る。

 魔法で体調を戻しても、本人の生活習慣が改善されなければ、また元のような身体に戻るだろう。
しかし、傷跡は一度消してしまえば、同じものはもう戻らない。
カインは、それは良いことだと思っていた。傷跡なのだから、戻らなくて良いものであるはずだ。

 後日、ヨシュアから手紙が来た。
ジェドが自ら命を絶ったという連絡だった。

「後悔してるんだ?」

 珍しいよね、とカルマは言う。

「おれが後悔なんてする訳ないだろ……でも、反省してる。きっとおれが治した傷の中に、ジェドにとっては大事なものが含まれてたんだな。それからは、むやみやたらに回復魔法は使わないようにしてるんだ。昔みたいに崇拝されるのも嫌だし」
「神さま扱いされるの、嫌なの?」
「嫌だね、めんどくさい」

 カルマの傷が治った肩をペチッと叩いた。全然痛くはない。

「回復魔法のコントロールも、わざわざ魔力絞ってかけるのめんどうなの。だから、なるべく怪我すんなよって話!」
「えー、むずかしいなぁ……」

 カルマは馬鹿なのでどうせまたすぐ怪我をするだろうが、今後「治って困る傷」は作らない事だろう。

「魔女め……」

 旧式のリボルバーを手にして、ジェドはつぶやく。
ジェドは魔法を使う者全てを、侮蔑の意味を込めて魔女と呼ぶほどには嫌っていた。
昔、妻だった女を魔女に殺されたからだ。

 あの時も自分は深い傷を負った。
妻だった女が命と引き換えに回復魔法をかけて、自分だけが一命をとりとめてしまった。頼んでもいないのに。
女のかけた魔法は頼りなく、不出来で、命は助かっても傷跡だけは消してくれなかった。

 忘れるなと言わんばかりに胸に走る傷跡……の感触はもう無い。
致命傷を受けて生き延びたのは、これで二度目だ。

「……命乞いをしろと言っておいて、生きる意味まで奪い去るなんてな……クソが」

 銃声が響く。奇跡の三度目は無い。

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好き嫌いの激しい雑食性偏食家。天使と青色1号が好物。脳みその主成分がSFと人外とファンタジーで出来ている。
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