「ヒーラー様の言うとおり!2」

ルスランとレフとアドリアナ

ヒーラー様の言うとおり!」の続編。聖騎士団。旅の始まり編ギャグ小話。

 教会所属の聖騎士団に正式加入し、異形討伐の旅を許可されたものの、予想外の人物二名と半ば無理矢理組まされて丸一日が経過した。

 初日は、目の前で起こった色々ショッキングな出来事にかき回された心を落ち着かせ、頭を整理することに費やしてしまったため、もはや記憶も朧気だ。
翌日気を取り直して二人に目的地を告げ、すぐに出発できたのは奇跡だ。まあ、二人は集まった時にすでに、旅に出る準備は済ませてあったからなのだが。

 そして、僕たちは聖騎士団が本拠地を置くアステリアを出て、いくつかの小国を経由して、南の大国サンドランドへ向かう道中だ。

「サンドランドかー! 行くのは結構久しぶりだなぁ……昔は枯れ果てた砂漠地帯が広がるだけの面白味のない土地だったけど、聖獣と契約したおかげで豊かな水源を確保したみたいね。今はもう緑化が進んだ豊かで広大な大地を持つ、アステリアに次ぐ大国ってやつね!」
「アドリアナ……貴女本当に歳はいくつなんです? サンドランドが砂漠地帯だったのは、遙か昔の話じゃないですか……」
「やーねールスランったら! レディに年齢を聞くのは失礼よ!」

 まさかあの悪名高き伝説のヒーラー・アドリアナと共に旅することになろうとは、想像もしていなかった。一人旅のつもりだっただけにその衝撃は大きい。
しかしどんなに中身が腐っていようが、職業ヒーラーは旅に欠かせない存在だ。
そしてあのアロー神父に、剣の腕は一流と言わせしめたレフと言う男も、旅の同行者とすることには異存はない。
何せ魔力に自信があるとは言っても、所詮魔法使いの体力などたかがしれている。ふとした弾みで集中を切らすか、不意打ちを食らいでもしたら一巻の終わりだ。
それを考えると、アドリアナとレフの二人は、この旅を無事成功させる為の頼もしい存在なのだ。

(しかし本当になにもしゃべらないんだな……)

 レフはどうやら会話が得意な方ではないらしい。積極的にこちらに話しかけてくることはない。
話しかければそれなりに反応するし、返事も返ってくるのだが、「ああ」とか「わかった」とか、必要最小限のことしかしゃべらない。そして本当に聞いているのか、あるいは話が通じているのか、実のところ良くわからない。
先ほど「この先の分かれ道は右の道を通っていく」と伝え、返事も聞いたはずだが、その直後に迷うことなく左の道を突き進んで、崖から滑り落ちそうになったのは紛れもなくレフである。

 レフは鳥の亜人だと言うが、鳥系の亜人の大半が翼は見せかけのみで飛行能力は退化しており、実際飛ぶことはできない。崖から落ちればまず命はないだろう。
いや、もしかしたらアドリアナがすぐヒーリングをかけて、命だけは取り留めるかもしれない。命だけは。

「それにしても、さっきのルスラン良い顔してたわ~こう、何ていうの……攻のピンチを心配する健気受みたいな?」
「やめてください。昨日から言ってますが僕はストレートです! あと、なんですかその攻だの受だのって」
「えー気になるー? じゃあまずはあたしの発行したこの入門書的薄い本を読んでみると良いわ!」
「やっぱりやめておきます……表紙が不吉です。あとその本どっから出した!」
「ルスラン……乙女には秘密が多いのよ?」
「はぁ……」

(もうやだ疲れた)

 こういったやりとりを昨日から繰り広げているが、アドリアナは考えを改める気はないらしい。なんせ彼女の掲げる座右の銘が『世のすべての男はカップリングの可能性を秘めている』だそうなので、僕とレフがネタにされるのは必然ということらしい。

 性癖至ってノーマルな僕が、あえてホモセクシャルの道に走るだと? あり得ない……
どうしてそういう下品な妄想を、直接僕本人にぶつけてくるんだ。
遠慮というか配慮という言葉を知らないのか、彼女は。

「さっきのネタで一本書こうかなぁ……あーでもまだもうちょっと、なーんかイベント的なの欲しいわねー。もっとこう、十八禁的展開に持ち込みやすいような……」
「あーあーやめてくださいよもう! レフも黙ってないで何か言ってやってください! っていうか何か言ったらどうなんですか!」
「……ルスランとアドリアナは、仲が良いんだな」
「……はぁ!?」

 今までのやりとりをどう見たら「仲が良い」事になるのか!
もしかしたらレフは、とんでもない馬鹿なのかもしれない。
良く言えば天然。見た目どころか頭も鳥だったか……

「寡黙な傭兵が実はド天然……これは、イケるわ!」
「どこへ行こうとしてるんですか貴女は……」
「下だ、ルスラン!」
「は……?」

 突然大声を出したレフに突き飛ばされた。
その瞬間、さっきまで僕の立っていた地面が割れ、隙間から黒い影が吹き出した。

―――異形だ!

 体が霧状で形が定まらないこの異形は、しかし弱点であるコアの位置が一目でわかるという特徴を持つ。
だが、いくらコアの位置がわかるからと言って、変幻自在の異形にレフとアドリアナを触れてしまうわけにはいかない。人はほんの少しでも異形に触れると、その箇所から徐々に『異形化』する。意志を持つ病のような驚異、それが『異形』だ。

「霧の体に触れると異形化します。レフ! 僕が魔法で体とコアを分離させます、コアだけを狙って斬ってください!」
「わかった」

 レフは短く返事をして異形と距離を取った。それを見届けて、僕は地面にうずくまったまま、異形に杖を向ける。立ち上がるのは諦めた。

 攻撃的で自由気ままな風を杖先に集め、霧の体めがけて放つ。ボッ、と爆発するような音をたてて、黒い霧は彼方へ追いやられた。コアと離れすぎると動きの鈍くなるタイプらしい。
目の前には鈍い輝きを放つ黒真珠のようなコアが浮いているだけに見える。しかしそのコアは、次の瞬間真っ二つに割られていた。

「大丈夫ルスラン? つーか突き飛ばされただけで動けなくなるって、打たれ弱いわね」
「モンスター数十匹に囲まれて、全力で殴られてもほぼ無傷な貴女と一緒にしないでください……」
「まーそんなあたしでも異形化は治せないわ。だから、異形化を止める力を持つ『世界の記憶』が必要なのよ」
「……」

 アドリアナは言いながらもヒーリングをかけてくれる。
悔しいことに、彼女のヒーラーとしての腕は認めざるを得ない。

 『世界の記憶』……いったいそれがどういうものなのか、どんな形をしていて、どう使うのかすらわからないものを、僕たちは求めている。
聖騎士団員としての、各地の異形討伐活動という建前と、『世界の記憶』に関する情報収集。

 アロー神父はこの二人のことを「僕の意志に賛同する人物」として紹介してくださったけれど、この二人は僕の目的を、一体どこまで知っているんだろうか?

「それにしてもルスラン……あんたもうちょっと体力つけた方がいいわ、いくら何でもヤワすぎよー」
「僕は火力重視の魔法使いですよ? これくらいが標準なんです」
「それにっ! いざ夜の御奉仕となった時にこんなに体力がなかったら、最後までできないじゃない!!」
「何の話ですかっ……できなくて結構です!!!」
「ルスラン……夜に何かするのか?」
「うわあっレフが喋っ! ……しません! しませんから!」
「こ・れ・は……! 良いネタありがとう! 良いぞー良いぞーもっとヤれー!!」
「絶っっ対にしませんからね!!」

 僕らの旅は、まだ始まったばかりである。

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