「ヒーラー様の言うとおり!」

ルスランとレフとアドリアナ
聖騎士団。出会い編ギャグ小話。

 聖騎士団にも種類というものがある。
教会所属かアステリア王国所属かで、方針もずいぶんと違うものだ。王国所属の聖騎士団からのスカウトを蹴り、わざわざ教会所属の聖騎士団に入ったのには意味がある。

「ルスラン、君の活躍を期待しているよ」
「僕も是非、貴方の期待には応えたいです、アロー神父」

 王国所属の聖騎士団は、あくまで王国のために正義を行う。しかし教会所属の聖騎士団は、王国にも他国にも支配されず、教会の掲げる思想を元に正義を行う。
全世界に分布する教会と、大国とはいえノア大陸の一部しか支配権を持たないアステリアの騎士団とでは、規模が比べものにならない。
これは大きな違いだ。特に、僕の理想のためには。

「君の魔力の高さは血筋が証明してくれるだろうが、実戦経験がない君が一人で動くにはいろいろと不都合が出るだろう。紹介したい人がいる、君の手助けをしてくれる人たちだ」
「はぁ……」

 何だろう、イヤな予感がする。
魔法使いの胸騒ぎほど、的確で正確で不吉なものはない。
アロー神父、できればその扉は開けないでいただきたい。そして僕は今すぐ鍵をかけて立ち去るべきだ。

「あのっ! アロー神父……」

 ガチャ……

「うおおおおおぉぉっ! やーっとキタ―――!!」

(しまった、遅かったか……)

 キ―――ンと耳に響く甲高い声は少女のものだ。
扉を開けたと同時に飛び出してきたのは、真っ赤な髪に真っ赤なリボンをつけた身長150cmに届かない程の小さな亜人の少女だった。その耳や尻尾などの特徴から、おそらくリス系だと思われるが……。
その少女の向こうに、同じくこちらを待っていたであろう帯剣した黒髪の男の姿も見える。腰から黒い翼を生やした彼は鳥の亜人らしい。男の方はこちらを一瞥しただけで興味なさそうにそっぽを向いてしまった。何なんだ?

「ちょっとぉ! 感じ悪いなぁ、さんざん待たせといて挨拶なしかよっ!」
「いや……アロー神父、これは一体どういうことですか?」

 キンキン声でしゃべる少女は、さっきからおおよそ女性とは思えぬ立ち振る舞いだ。見た目は小さくかわいらしいというのに、その口調のせいで何もかも台無しである。

 そもそも、誰かと組まされるだなんて一言も聞いていなかったのだ。
アロー神父に説明を求めるも、彼は若干目を逸らしつつ、言った。

「ルスラン……実は君の母親からの依頼でね……」

 またか……。
実の母親とはいえ、いい加減にしてもらいたい。こちらはもうとっくに成人の議を済ませたというのに、親離れならぬ子離れが出来ないだなんて。

「何て言われたんです? 護衛でもつけろと? 先に言っておきますが、僕は一人でも十分やっていけますよ」

 先手を打ったつもりだったが、アロー神父はきっちり切り返してきた。

「世界中の異形化を止めるために旅に出る君の志は立派だと思うが、そもそも『世界の記憶』だなんて、どういうものかもあやふやなものを君一人で探すのは無茶だと思うよ」
「それはあくまでついでです。聖騎士団の仕事……つまり、旅をしながら各地の異形を討伐すること、それが第一です。アロー神父、僕が攻撃魔法を得意としているアンタレス家の長子だと言うことはお忘れですか?」
「いや、しかしアンタレス家は女系の血族。君の魔力の高さは認めるが、やはり君は男だし、魔法使いの一人旅はおすすめできないよ」
「アロー神父……」
「わかってくれ、君の母親もそれを知っていたからこそ、彼らを呼んだんだ」

 そう言ってアロー神父は室内の二人を呼び寄せた。
少女の方は、先ほど蔑ろにされたからか、すっかりぶすくれているようだが。

「紹介しよう、彼の名はレフ。正式な聖騎士団ではなく、流れの傭兵だが剣の腕は一流だ」
「傭兵……?」
「彼にも事情があってね、しかし旅の目的は君と同じだ。腕の方は別件で見せてもらったよ。かなりの腕前だ、信用して良い」

 黒い髪に青い瞳のレフと言う男は、確かに装備はいかにも流れの傭兵が好みそうな軽装だったが、武器の使い込み具合とは逆に身なりは整っていた。
確かに、腕は良いのかもしれない。さっきから一言もしゃべらないが、それが彼の普段のスタイルらしい。

「それと、もう一人……」
「あーようやく出番? もー、待ちくたびれたよー!」

 アロー神父の紹介を遮って出てきたのは、先ほどまで拗ねていた少女だ。

「あたしの名前はアドリアナ。アンタレス家の生まれなら、聞いたことくらいはあるでしょ?」

 彼女のその一言で戦慄した。なんてことだ。

 その愛らしい亜人の特徴と、くりくりした大きな紫の目に赤い髪、低身長……
そんなものがまとめて吹き飛ばされるほどの恐ろしさを感じた。

 目の前の少女は、魔法を嗜むものにはそれなりに有名だ……悪い意味で。

 アドリアナ……旅の同行者としては頼もしいパーティの要、回復魔法を極めし者、職業ヒーラーだ。
しかし、彼女の恐ろしいところはそこではない。

「もし僕の知っているアドリアナと、貴女が同一人物だとしたら、年齢が合いませんよ?」
「やーねー! あれから何度か世代交代したに決まってんじゃーん! あたしは、三人目よ?」
「じゃあ僕の知ってるアドリアナと、同一人物ってことでいいんですね」

 あぁ神様……まだ旅は始まってすらいないのにこれはひどい。

「アロー神父……」
「ルスラン……君の言いたいことは何となくわかるが、君の母親からの依頼でね、私も、断れないんだ……わかってくれ」

 ……道は絶たれた。

「とりあえずよろしく『魔法使いのルスラン』。あたしとレフはアンタのこと聞いてるから、自己紹介はいらないよー」
「はぁ……よろしく、お願いします……」

 差し出されたアドリアナの手をおずおずと握り返すと、今一番聞きたくなかった衝撃的な言葉を聞かされて、僕の彼女への謙虚な心構えは早々に四散した。

「うふふ~! 寡黙傭兵×魔法使いかぁ~これは……執筆活動がはかどるわぁ~ふふふ」
「よせ、やめろ……僕はストレートだぞ!」
「嫌よ嫌よもなんとやら……知らないの? あたしの座右の銘は『世のすべての男はカップリングの可能性を秘めている』よ!!」
「うわあぁぁっ! アロー神父ー!」
「実は、君の母親が……彼女の作品の大ファンでね……」
「なぜ今それを!? そんな事実知りたくなかった!」

「さぁいくわよー! 異形退治とその道中で芽生える禁断の恋の予感だわ~!」
「誰かメンバー変えてくれー!!」

 こうして出会った三人だが、なんだかんだで名家の魔法使いルスランと流れの凄腕剣士レフとの相性は良く、伝説の腐女子ヒーラーアドリアナの活躍もあってか、数々の死線をくぐり抜けた彼らは、ノア大陸で知らぬ者がいないほどの名声と腐名誉を一気に獲得するのだった。

 旅はまだ、始まったばかりである。

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