「それで、結局どこに向かってるのさ?」
進んでも進んでも緑しか見えない。
無言で、ただひたすらと、小一時間は歩いただろうか。
いい加減限界だった。
……体力的にも。
「どこって……アスターだよ」
「それはどこだ?」
「アステリアの首都」
んなもん知るか。
ナギカは心の中で毒づいた。
地理も地名も文化も……何もかも知らない。説明もない。
しかし目の前の少年はそれだけ言うと、再びさっさと歩きだしてしまった。
アスターという場所に行くというのは、決定事項らしい。
それからまたダラダラと二人だけで歩く。
少年が適当な相槌ばかりうつので、特に会話らしい会話もない。
どれくらい時間が経ったのかを知りたくて、ナギカは自分のスマホを叩いた。そこでようやく少年が反応を見せる。
「さすが異世界の人間。見たことのない端末を持っているな」
「……ああ」
彼の言う端末というのが、スマホのことだと気づくのに少し時間がかかった。
ナギカの世界でなら、誰でも持っているであろうスマートフォン。やはりこの世界では珍しいらしい。
しかし彼はスマホを見ただけで端末と言っていた。他にも何かしらの機械はあるのかもしれない。
何となく、彼の腰に差している武器が原始的だなーと思っていたナギカは、この世界は機械には疎いんだろうなということは、たやすく想像することができた。
「……今、おれのこと馬鹿にしたろ」
少年に睨まれた。何となく理不尽だ。
スマホの時刻は午後の四時を指していた。
もう夕方だ。
それにしては、太陽がずいぶんと高い位置にあるように感じるが、この時はそんなに深くは考えなかった。
もしかしたら、時刻のズレはあるのかもしれない。
そうこうしているうちに、周囲の景色が一変した。
ようやく森を抜けたらしい。
しかし右も左も正面も、どこを見渡してもただただ広い、何の変哲もない平原。さらに平野の向こうには山、山、森、山。
手つかずの自然と言えば聞こえは良いが、今の今まで緑しかない森の中を、延々と歩き続けてきたナギカにとっては、地獄の広さだ。
もうマイナスイオンでお腹いっぱいだ。
緑色の物はしばらく視界にも入れたくない。……勝手に入ってくるが。
どう考えても、付近に民家らしきものもなく、ヒトが住んでいる気配はない。
しかし目を凝らせば、平原のはるか遠く、先の方に建造物らしき物が見える。建物というか、思ったより立派でまともな、街らしきものが。
「あの向こう側にぼんやりと壁っぽい物が見えるだろ、アレの中がアスター」
彼方に見える、壁で囲まれた街を指さして、少年は簡潔に述べた。
嫌な予感しかしない。
「……まさか歩いて行くとか、言わないよね?」
「そのまさかだ」
「はぁ……」
思わずナギカは地べたにへたりこんだ。
と言うか、力尽きたと言った方が良い。
「……無理」
学校指定の、濃紺のスカートが土にまみれるのも構わず座り込む。
元より泥だらけだから、今更気にならなくなったというか。そう思うと一気に足の力が抜けて、べったりと地面に座り込んだ。
もう、二度と立ち上がれる気がしない。
「大丈夫、歩いてもアステリアには夜までに着く距離だよ」
「絶対無理」
どの辺が大丈夫なのか聞きたい。
正直、ここまでの道のりも相当長かった。
目が覚めてから急に全力疾走させられた上に、普段歩かないような草道を延々と歩き続けて、足はすでにパンパンで、限界だった。
ここまで休まず歩いたことを先に褒めて欲しいくらいだ。
運動は苦手ではないが、特に部活をやっている訳でもないし、日頃の運動不足も祟って……いや、関係ない。それは全然関係ない。
「ねぇ、車とか……ないの?」
「車ぁ?」
「車じゃなくても、乗れるものなら何でもいい。もう歩き疲れたよ」
頭の中はもう、歩かなくて済む方法ばかりを考えている。
小高い位置にあるこの丘からは、アステリアとその周辺の畑らしき物や、遠くまで続く草原が良く見渡せた。
アステリアの周辺を囲む壁にある、いくつかの門からのびる小道には、はっきりとは見えないものの轍のあとがあるようだし、きっと乗り物くらいあるだろうと、視線をずっと街の反対側へ向ける。
と、そこには黒い馬らしき生き物が引く、荷馬車のようなものが土煙を上げながら走って来るのが見えた。
「アレって……馬車?」
確認ではないが、思わず声が漏れた。
「ああ、でもアレは……」
「アレ! あれで良いよ!」
何か言おうとした少年の言葉を遮って、ナギカは馬車を指さし叫んだ。
「アレをとめて!」
「お、おう!」
そう言って彼は勢い良く丘を駆け下りると、馬車の行く手をふさぐようにして立ちはだかった。
馬車を操る青年は、少年に気付くと素早く馬車を止め、何やら慌てた様子で座席から飛び降り、少年に頭を下げ始めた。
会話は聞こえないが、青年が一方的に少年に平謝りをしているように見える。
明らかに少年の方が飛び出したのに、だ。
やがて話がついたのか、少年がこっちへ来いと大きく手を振った。
そこでようやくナギカは重たい腰を上げる。
足はまだ痺れたように感覚がなく、ちょっとつまづいただけですぐ転びそうだ。今膝カックンなんかされたら、顔面から転がり落ちるだろう。
慎重に丘を下りると、馬車を運転していた青年がナギカに向かって深々と一礼をした。被っていた帽子も脱いでの、丁寧で長い礼に若干のいたたまれなさを感じる。
ようやく顔を上げた御者の青年は、その目にうっすらと涙をにじませていた。
……いったい私が何をしたのか。
「帝国軍に見つかる前で良かった、本当に」
「ていこくぐん?」
またも聞きなれないワードだ。
青年はぐしぐしと涙を袖で拭って、帝国軍とは何か、言葉を選んだ末「恐ろしいところです」とだけ説明した。それ以上の説明を求める前に、体が悲鳴を上げた。
「足が、限界なんだけど……」
早く座らせて欲しかったが、馬車の座席は運転席のみだった。つめたとしても、どうしてももう一人乗れるようには見えない。
「こいつに乗れば?」
こいつ、と金の髪の少年が指さしたのは、この荷馬車の先端にいた、ずっと馬だと思っていた黒い生き物のことだ。
馬のようなタテガミが生えているが、馬よりはロバに近い長くて大きな耳に、顔はどう見ても爬虫類のそれで、胴体には体毛の他に所々鎧を思わせる堅そうな鱗が見える。足は蹄ではなく鋭い爪を備えた四本指で、尻尾は毛がなく、つるりとしていて長い。
本で良く見るスタンダードなものとはまた形が違うが、こいつは馬じゃない……ドラゴンだ。
「私は、荷台で良いよ……」
「えっ?」
馬(?)車の後ろには、布で覆われて中身は見えないが、大きな荷台がある。
どの位荷物が積まれているかはわからないが、少しくらい空いているスペースはあるだろうと、荷台の後方へまわった。
「あ、ちょっと……」
「わっ、な……きゃああぁぁぁあっ!!」
少年が呼び止める間もなく、布をめくったナギカは、今までの人生で上げたことのない大きな悲鳴を上げていた。
驚きすぎて尻もちをつく。
途端に荷台から失笑が漏れた。
「あ~あ……」
少年はあきれたような顔をしたが、こっちはそれどころではない。
本当に驚いたのだから、許して欲しい。
荷台にいたのは、鎧を身にまとった大きな体格の男たち……それだけなら許容範囲だったが、彼らの頭部は虎や熊やライオン……猛獣そのものだった。
被り物ではないことは、その表情で一目瞭然だ。ちゃんと瞬きもする。
「やれやれ……初対面で礼儀がなってないのは、どの降臨者も同じだな」
「毎回同じパターンさ、私はもう慣れたよ」
虎と熊が流暢な日本語で会話している様を見て、ナギカは目を白黒させた。
「熊が……しゃべった……」
「そりゃあしゃべるさ。お嬢さんの世界の熊は、しゃべらなかったのかもしれないけどね」
しゃべった上に、会話もできた。
こちらは驚きのあまり腰まで抜かしてしまったというのに、彼らの落ち着きっぷりに、なんだか逆に恥ずかしくなってしまった。
「少し狭いが、乗るならどうぞ。お嬢さん」
あぐらをかいた立派なたてがみのライオンが、からかうような口調で話しかけてきた。
しかし今のナギカには、冗談に応じる余裕という物がない。
しかも、悲しいことについに足腰が限界を迎えてしまい、持ち主のナギカのいうことを一切聞かない状態になってしまっていた。
「こ、腰が……」
「どれ、手を貸そう」
一番手前にいた熊頭の戦士が、荷台から下りてナギカの足と腰を支えて、軽々と荷台に持ち上げた。
見た目は勝手なイメージですごく乱暴そうに見えるのに、態度はとても紳士的な熊だ。
「ありがとう……ございます……」
「なに、軽いものだ」
礼には及ばん、と軽い身のこなしで荷台に上がると、外に御者の青年に馬車を走らせるように呼びかける。
程なく、荷馬車はゆるりと動き出した。
それにしても……
慣れというものは恐ろしいな、と目の前にどっしり座る巨体の男たちを見ながら、ナギカは思った。
彼らの頭を見れば、人外だということは一目でわかる。
熊、虎、ライオン。そしてその身体は鎧に包まれていて、隙間から見える肌も獣の体毛で覆われていることが伺える。
もしかしたら、この世界の人には動物の血でも入っているのかもしれない。ここまで連れてきてくれた、あの少年にも尻尾があったことだし。
そして皆一様に武装している。
……と言っても、拳銃なんかを持っているわけではない。
日本に生まれてそれなりに、世界情勢なんかもネットやテレビで知る機会のある自分にとっては時代錯誤にも思える、鉄製の剣やら斧やらが主な武器らしい。
そんなことを冷静に考えられるくらいには、気持ちも落ち着いてきたようだ。
ガタガタと荷台が揺れる。
舗装された道路を走っているわけではないので、多少揺れるのは仕方がない……と言いつつも、内心参っていた。
座っているおかげで足への負担は無いものの、腰を抜かしたせいで座っているのさえも、正直辛い。
「この竜車は良く揺れる。辛ければ遠慮せず、わたしに寄りかかるといい。少しは楽なはずだ」
「あ、ありがとう、ございます……」
熊頭の戦士はナギカに楽な姿勢を取らせようと、寄りかからせるように肩を抱いてきた。
体勢は楽になったが、目の前には虎頭とライオン頭も居て、まるで恋人同士がやるような格好のせいで、多少恥ずかしい。
向こうは毛皮のせいで表情が良くわからないし、正直どうすれば良いのか困ってしまった。
「入れ込んでいるな、ランカー」
案の定、ライオン頭にツッコミを入れられた。
「からかうなジャギ。人間はわたしたちとは違って、繊細な生き物なのだ」
「確かにな。前の降臨者の事もあるしな」
獣頭の三人は、良くわからないことを言って頷きあう。
「えっと……降臨者って?」
思わず手をあげて質問してしまった。
ジャギと呼ばれたライオン頭の男は、目をしぱしぱさせた。
何かおかしなことを言っただろうか?
「カインから、詳しく聞いてはいないか?」
熊頭のランカーからの質問に、首をぶんぶん横に振って答える。
それよりむしろ……
「……カインって、誰?」
はぁ、と一斉にため息が聞こえた。
「あいつ……めんどくさがり屋だからな」
ウンウン、と獣頭は三人同時に頷いていた。
「イギー、説明してやれ」
ジャギがイギーと呼んだ虎頭は、荷台の前方を指さした。
「君をここまで連れてきた、金髪の少年の名がカインだ」
「ああ……」
そう言われてやっと、あの少年の名前がわかった。
名乗られなかったし、聞きもしないのも悪かったとは思うが、名前について全く触れていなかったことを、少年のめんどくさがり屋が発揮されたせいだ、の一言で片付いてしまうのもどうかと思う。
道中で何となく感じていた、あの少年の性格は周知の事実だったらしい。
「まあ、偽名らしいがね」
ランカーがそう付け足す。
「そして、この世界に異世界からやってくる人間のことを、俺たちは降臨者と呼んでいる」
「……私の他にも降臨者がいるの?」
「ああ、いる。たくさんな」
この世界が、異世界を認めていること自体にも驚いているが、異世界から来た者たちが他にもいると聞いて、更に驚いた。
イギーが言うには、降臨者自体は珍しいが、異世界から人が来ることは良くあること……らしい。
「アスターに行けば、すぐに何人かには会えるだろう」
ぽんぽんと、肩を叩きながらのランカーの言葉は、力強くてありがたい。
自分以外の降臨者。先人がいることが正直心強かった。
しかし、ジャギとイギーが聞き流せないことをつぶやく。
「降臨者は貴重なんだ。あらゆる国が欲しがって手を伸ばす」
「特に帝国軍は最悪だ。あの国に行っていたら、君も命を落としたかもしれん」
……アステリアで良かったな。
そう言いたいのかも知れないが、この世界に来てすぐ、化け物に襲われて命を落としかけた身としては複雑だった。
元の世界では、『死』なんてものは遠いところの話だったから、改めて異世界の危険さを思い知る。
「おいおい二人とも。彼女はまだこの世界に来て日が浅いんだ。怖がらせてどうする」
日が浅いどころか、今日来たばかりだけれど……
「君が来ることをカインは知っていたようだ。困ったことがあったら彼に言ってみると良い」
「えっ?」
そう言えば、この世界に来たとき何か言ってた気がする。
「待っていた」とか「彼女に聞いた」とか何とか……
「何にせよ、帝国軍に先を越されなくて良かった。あの森は国境が近いんだ」
「帝国軍ってのは、国の名前なの? なんで帝国軍は危険なの? アスターってところは本当に安全?」
「質問ばかりだな。俺たちは君の名前さえ知らないのに」
イギーの尻尾が苛立ったように床に打ちつけられた。
すかさずランカーのフォローが入る。
「違う世界から来たんだ、疑問だらけなのは普通だろう」
返答を待たずに立て続けに質問したせいか、三人は少し困っているように見えた。
そう言えば、まだ名乗ってすらいなかった。
聞きたいことはたくさんあるのに。
これではあの少年と変わりない。
「ごめんなさい。私の名前はナギカ、桐沢凪香」
そうして名前を告げると、彼らも改めて自己紹介をしてくれた。
熊頭がランカー、虎頭がイギー、ライオン頭がジャギと名乗った。
彼らはアスターで働く傭兵……のようなもの、だそうだ。
……傭兵が良くわからない。
ふいに荷車のスピードが落ちて、やがて止まった。
長いこと揺られていたような気もするが、ランカーはまだアステリアの門に着いただけだと言う。
この荷車は、思ったより速くはないようだ。
「すみません、検問があります」
「うむ」
荷台の布をまくって御者の青年が顔を出した。
乗るときには気づかなかったが、まともな人間の姿をしていると思った彼も、また良く見ればその頭部、耳の上に小さな角のようなものが生えていた。……牛だろうか。
「ナギカ、一度降りよう。兵に荷を見せねばならん」
狭い荷台では、体格の良い獣頭の彼らはまっすぐに立つわけにはいかない。中腰になりながらも、ランカーはさり気なくナギカをエスコートしてくれていた。
どうやらこの中では、ランカーが一番の紳士らしい。
ずっとリラックスして座れたおかげか、足の痺れは幾分解消されたようだ。
荷台から降りる動作も問題ない。多少ギクシャクしてはいたが。
荷台のわずかな荷を降ろすと、馬車とは別に、ナギカたちは検問を行う場所に通された。
そこには御者の青年と、あの金髪の少年もいる。
現在戦争中のアステリアの検問は今、厳重らしい。
門の中に椅子がいくつか置いてある待機スペースと、その先に茶色いテントが張ってあり、中で荷物検査とボディチェックまで行うそうだ。
人の出入りはそんなに無いため、いくつか空いている椅子のうち、テントから一番遠い椅子に座って鞄を眺めた。
「荷物検査って……どうしよう。鞄に色々入ってるけど、何がダメなのかな? この国のルールが全くわからないんだけど」
「敵国との通信機器や、密書などだな。要はスパイを入り込ませないための検問だ」
鞄の中身はノート、筆箱、財布、お菓子、スマホ……ごく普通の高校生が持っているような物ばかりだ。
しかし、それが今、猛烈に怪しい。
言葉は不思議なことに通じているが、文字も通じるかはわからない。
先ほどチラリと覗いた監視兵の持っていた書類には、見たことのない文字がびっしり書かれていた上に、ナギカはその文字が読めなかった。
きっと彼らにとっても、ナギカが授業で使ったノートは暗号文のように見える……かもしれない。
そしてスマホ。この世界に来たせいか、ずっと圏外の状態だがこれは機械だ。
こんなアナログな世界に通信機器なんておかしいが、スマホはその用途からして通信機器であることには違いない。
「これって……やばいかなぁ?」
「……それ何?」
「うわっ!!」
椅子に座りながら、スマホ片手にぶつくさ呟いていると、突然声をかけられた。
慌ててスマホを隠すが、それを咎められることはなかった。
目の前にいたのは、あの金髪の少年だった。
「さっきの端末か。多分、今は戦争中でみんなピリピリしてるから、変な機械とか持っていると怪しまれると思う」
「や、やっぱり……?」
じゃあこれってモロに怪しまれるんじゃない?
小型で白いカバーをつけた有名メーカーのスマホは、この世界では電波が届かなくて使えないが、没収されたり壊されたりすると困る。すごく困る。
元の世界に戻った時に買い直せば良いのかもしれないが、そこそこアドレスも入っているし、学生にとってはそんなに安いものじゃないので容易には手放せないのだ。
「降臨者ってことで免除してもらう訳には……」
「それはダメだねー」
「だよねぇ……」
はぁ、どうしようかと呟けば、少年はナギカの手からスマホをもぎ取って……消した。
「……えっ!?」
一瞬壊されたかと思ったが、彼の手が白い光に包まれたかと思うと、ナギカのスマホは跡形もなく消えていた。
そう、まるで魔法のように。
「ちょっと! ……どこやったのさ!」
「おれの家」
「あ、そう……」
とりあえず、スマホは無事らしい。
どうやったかは知らないが、目の前で何の宣言もなく、そんな特殊な能力使うのはやめて欲しい。
そろそろこの世界に慣れたいが、急に見せつけられると心臓に悪いものがある。
「一応……ありがとう。えっと、カインくん?」
「どういたしまして。でも『くん』をつけられると気持ち悪いな」
「……呼び捨てで良いってこと?」
「好きに呼んでくれて良いよ。名前なんか、そんなに意味は無いんだ」
あっさりと返してくるその態度で、彼はあんまり自分の名前が好きじゃないのかもな、と感じた。
そうこうしている間にランカーたちの積み荷検査は終わったらしい。残っているのはナギカとカインだけだ。
鞄の中にはまだ疑われそうなノートなんかが入っているが、これは没収されたとしても諦めがつく。
降臨者だということを口実にすれば、罰則があったとしてもそんなにひどい目には遭わないだろう。
ナギカはテント前で一呼吸置き、覚悟を決めてからその入り口をくぐった。
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