アイオンの鍵

創作好きの絵と文サイト。オト(@oto05i)の日々とウサギ、ゲーム、青い食べ物など。オリジナルイラストとファンタジー小説展示。

「別離」

投稿日:2014年8月6日 更新日:

カインとカズミとヒュカ

異形への対処法。

 イライラしながら煙草に火をつける。
火をつけて煙を吸い、吐き出すまでの一連の流れはもはや作業だ。

 二人の少女が基地に保護された。それ自体は珍しい事でもないが、問題は少女の状態だった。
一人は何の問題もない。残るもう一人は……異形化していた。

「で? どうして基地内に入れたのか、説明してもらおうかしら」
「だってカズミ暇でしょ? わたしには手に負えないもの」
「暇ではないし、手に負えないのは私も同じ!」

 八柱神が異形の影響を受けないとはいえ、攻撃本能の塊である異形には普通に襲われる。攻撃対象にならないわけではないのだ。

 しかも少女の異形化は進行中であるにも関わらず、もう一人の少女がべったりと張り付いている状態だ。聞けば二人は姉妹だという。しかしあそこまで密着してしまうといつ『感染』してもおかしくはない。

 カズミはイライラと短くなった煙草を灰皿に押しつけた。
吸い殻の山が少し崩れて、灰が机の上にこぼれる。隣でため息が聞こえた。

「そんなに山になる前に、少し捨てなさいよ。灰が舞って書類が汚れるじゃない」
「うるさいわよアル中」

 カズミは視線をかなり下の方に降ろし、吐き捨てるように言った。
このヒュカという女は小柄だが、なかなか癖のある人物だ。まあ、八柱神に癖のない人物などいないが。
ほとんど同じ職場で仕事をしているような状態にも関わらず、カズミのことを暇だと言う。仕事の分野はある意味正反対だが、暇だと思われるような行動をとった覚えは一切ないのに、だ。
むしろ先ほどまでヒュカの方が「新しい記憶装置のテストベースを作成中~」とか言って、暇そうにしていたはずなのに。

 カズミは新しい煙草を取り出して火をつけた。行動の度に煙草を吸うのは、ある種の義務と化している。

「で、アレどうすんのよ? 異形化してる方は、アレはもう最終段階ってところね。もうすぐ自我も消えるわよ」
「あの姉妹、身寄りがないから二人だけで生きてきたんですって。んで、異形化したのは妹の方ね。姉も、死ぬなら妹と一緒がいいとか言ってたわ」
「嫌よ。後味悪いじゃない。それより、感染経路は?」
「アステリア郊外東。最近多い所ねー」
「……まぁ、あいつがいるから仕方ないけどね」

 あいつというのはレッドアイズのことだ。
本人は冗談めかして「絡まれ体質」と言ってはいたが、イソラの宿命で、それは冗談ではなく事実だ。
良いものも悪いものも、どんどん引き寄せてしまう。
もちろんその悪いものの中には、異形も含まれる。

 カズミは深呼吸するように深く煙草を吸い込むと、あっという間にフィルター手前まで灰になった。火を消そうと灰皿に押しつければ、山になった吸い殻はボロボロと机に崩れた。

「ヒュカ、アルフィー辺りにアステリア郊外東の『清掃』を依頼して」
「はーい。じゃあそっちは任せたわよ」

 足取りも軽く、赤いイヤリングを揺らしてヒュカは部屋を後にした。結局自分で手を下すのが嫌だったのではないだろうか、彼女は。
まんまと押しつけられたなと思う。

 護身用の銃も念のため懐に忍ばせるが、異形相手では意味がないだろう。
他にナイフも持っていきたいが、使い慣れたメスの方がまだいいと思い、やめた。代わりにメスを数本持っていく。

 姉妹の様子を確認しようと、監視カメラのモニターを覗く。相変わらず姉が妹にしがみついているだけで、特に変わった様子はない。
モニター越しでも、妹の手足は黒く変色しているのがわかる。異形化の特徴だ。相当な痛みを伴うはずだが、妹はぴくりとも動かない。

 何の気はなしに、ふと隣のモニターに目をやると、白くて長いしっぽがちらりと映った。

「あら、いいタイミングじゃない」

 それは正面扉の手前を映したカメラのモニターだ。
しっぽの主は金髪の少年だ。しきりにカメラを覗きこんでジェスチャーを送っている。扉を指さし、口ぱくで「あけろ」と言っているのがわかる。いつもの事だ。

 残念ながらカメラにはマイクもスピーカー機能も付いていないので、カズミは一人室内で「はいはい」と返事をしてから、扉の開放スイッチを押した。

 途端に少年は扉が開ききる前の、わずかな隙間から基地内に進入した。
そのしっぽが見えなくなってからすぐに「閉」のボタンを押す。放っておいても自動で閉まるが、これはカズミの習慣だった。

 すぐに真後ろからドアを叩く音がする。
相変わらず足だけは異様に速いらしい。

「カズミー!」

 扉はなんてことのないタッチ式のドアなのだが、開けられない少年の声が響く。

「今開けるわよ」
「早く早く!」

 開ければスルリと滑り込むように入り、定位置へと座った。主にヒュカが扱う機械のメンテナンスに使う調整用ベッドの上だ。

「これ、治して」

 少年がおもむろに袖をめくると、そこには痛々しい爪痕があった。
ケモノに引き裂かれたかのような、いくつもの裂傷はまだ生々しく血の痕を残しており、流血はしていないものの普通の人間なら手術が必要な状態だ。
その状態を見てカズミは隠すことなく盛大にため息をついた。

「またやったわね……」
「気をつけたよ」

 悪びれることもなくしれっと言う少年の態度にイラついて、再びため息をはいた。

「……はぁ、何となく察しがついたわ」

 モニターの向こうでは、相変わらずぴくりとも動かない姉妹が抱き合っている。

「あの子たちがああなったのも、あんたのせいね」
「……思ったより人間が鈍くさかっただけだよ」
「皆が皆、あんたみたいに動けるわけないわよ。とりあえず、これ以上散らかさないでもらいたいわ」

 呆れたように言って応急処置のための麻酔スプレーとナノマシン配合薬を塗り、手早く包帯を巻いた。

「治療の前に、先にあれを何とかしてちょうだい」
「あぁ」

 処置を施したばかりの腕の調子を見るように、手のひらを握ったり開いたりしながら少年はベッドを降りた。
いつもは言うことを聞かないのに、素直に指示に従うあたり、もしかしたらよっぽど傷が痛かったのかもしれない。
姉妹のいる部屋へと続く扉を開けてやると、いつの間にか薄紅色の妖刀を手にして室内へと飛び込んだ。閉じた扉のオートロックがかかる。

 手を出すつもりはない。カズミは、後はモニターで見守るだけだ。

 少年が部屋に入ってから、微動だにしなかった姉妹の様子が変わった。異形となって黒化の進んだ手足をばたつかせて、妹が暴れ出したのだ。
その様子を見て、姉は少年がただ者ではないことに気づいたらしい。

「お願い! 殺さないで!!」

 姉の悲痛な願いが少年に届くことはない。
なぜなら、異形を救う方法は殺す以外にないからだ。

「もう助けることはできない。ラムリアと同じ石があれば良かったんだけど」
「やめて、ころさないで!」

 立ちはだかった姉を器用に避けて、少年の妖刀は何の迷いもなく妹の首をはね飛ばした。一撃だった。
首のない妹の体から、生物のように赤い血が吹き出ることはない。転がる首は黒い跡を残しながら壁にぶつかり、黒い煙になって消滅した。体も、同様に。
床に散らばる黒い跡も、やがて消えるだろう。

 姉はただただ、床を眺めていた。煙になって消えた、妹のいた場所を。

 カズミはその一部始終を見届け、煙草の箱を取り出した。

 姉妹のいた部屋のロックを解除する。
少年の手にはもう武器は握られていない。

「していないとは思うけど、念のため。感染の確認はヒュカにやらせるわ。あんたは先に診察室に行って寝てなさい」
「おれ、ドア開けられないよ?」
「こっちからちゃんとロック解除しておくから……」

 そう促すと少年は慣れた様子で部屋を出ていった。すぐに通路のロックを全て外す。一通り片は付いたのでヒュカを呼び出そうとした、その時。

「ひどい、殺さないでって、言ったのに……」

 残された姉がぼそりとつぶやいた。
少年とカズミは彼女の方を振り向く。

「悪魔! あなたは悪魔よ! わたしの、唯一の家族だったのに!!」

 天涯孤独の姉妹にありがちな世界観だ。
涙を流す彼女を、カズミは冷めた目で見ていた。

「あら何よ、私、巷では『神』と呼ばれてるのに」

 そう言って箱から煙草をつまみ出す。真っ赤な爪で。
少女ははたと泣くのをやめた。まじまじとカズミを見て、青ざめる。

「八柱神……」
「ご名答。自分の神様くらい覚えなさいよね」

 煙草に火をつけると、深く吸った。一気に半分近くが灰になる。

「……まあ、『覚えていられない』ってのが真実なんだけどね」

 紫煙を少女に向けて吐き出すと、少女は突然の煙にむせた。
ケホケホと暫く喘いだ後、まるで正気を取り戻したかのように、言った。

「あれ……私、どうしてここに……?」

 カズミは苦笑して、煙草を灰皿へと押しつけた。
人間の記憶というものは、こうも脆くて儚いものなのだ。

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好き嫌いの激しい雑食性偏食家。天使と青色1号が好物。脳みその主成分がSFと人外とファンタジーで出来ている。
絵が少し描けます。小説も書きます。
月の住人と同居中。創作国チョコミン党きのこの山派メーデー民ゲーマー。乗馬はじめました。
最近youtubeにゲーム実況動画投稿中。

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