「はじけまして」

下ネタって極めるとこうなるのかぁ……

 男は悩んでいた。
何に悩んでいるかというと、ナニに悩んでいた。
それはもう笑い事ではなく、真面目に、真剣に、本気で悩んでいたのである。あまりに性的かつプライベートな悩みは知り合いの誰かに相談するという訳にもいかず、男は一人悶々と悩み続け、苦悩し続けた。

 男の悩み、それは、短小であるという事。

「ププッ!!」

 男は至極真面目に話していたのだが、聞いていた方は吹き出した。真剣な話に対してその反応、とても失礼だ。しかも、仮にも男は客である。
だが男は気にしなかった。そういう反応も当然だろう、そう思ったからである。短小であるという事はそういう事なのだと、男はハッキリと自覚していた。笑われて当然、恥ずかしくて当たり前、なのである。失礼な態度をとられようが小馬鹿にされようが蔑まされようが、男が短小であることが全て悪いのであって、聞いている側に責任は無いのだ。短小が悪い、つまり短小である男が悪い。すなわち男が悪いのである。

「いや、そこまでは言ってないんだけど……」

 流石に吹き出したのは悪かったと思ったのか謝られたが、男の自虐は止まらない。
あまりにも悩み続け自信を喪失した男は、当然のように女性とお付き合いするという事も無かった。要するに女性経験は全く無いまま今に至る。つまり童貞であった。しかし短小という爆弾を抱えて女性と交際する気にもなれず、この歳まで来てしまったのだ。
男にとって女性は性的対象ではあるが、女性から性的な目で見られることにはまったくもって免疫が無かった。自信も無かった。なぜなら男は短小だからである。

 男はこれまでずっと短小で悩んできたが、どれくらい悩んだかというと、それはもう生まれた時から悩み続けてきたと言っても過言ではない。オギャーと産声を上げたその瞬間から男は短小を嘆いていたに違いないのだ。なぜなら男は短小で悩まなかった時期を思い出せない程に長い年月、短小であることを悩んでいたからである。

「えぇ……?」

 男の幼少期、親戚の男性と一緒に風呂に入った時に見た成人男性の逸物を見ては青ざめ、己と比べてあまりのサイズの違いに絶望した。あまりにもショック過ぎて、今は親戚の男性の逸物のディテールしか思い出せない。まさに大人と子供。男は幼少期から短小であることを気にして、苦悩し、悩みぬいていた。

「いや……それ、当たり前だろ?」

 以来エロ本巻末についている、ちょっとやらしい通販コーナーの「増強!肥大!」と書かれたグッズや、怪しげな薬は全て購入して試した。
藁にもすがる思いであったため、多少高くてもソレ用のアイテムは購入しまくった。そして試した。
なぜなら男は短小だからである。短小で無くなるためならば、ありとあらゆる手段を試す心づもりであった。できれば手術というのは最終手段としておきたいが、これ以上短小が改善される見込みがなければ手術も検討しているほどだ。
それほどまでに、男は短小であることを気にしていた。

「ちょっと待て」

 短小を気にして嘆く男を、今までベッドに座って話を聞いていた少年が遮る。しかし男の話は止まらない。

 男は短小である。世の中には男のように、短小であることを気にしている者は大勢いるに違いない。よって世の中には短小改善グッズやビジネスが溢れかえっている。散々前述した通り男は短小という悩みを抱えている。そして男は短小でなくなる為ならばありとあらゆるグッズ、クスリ、針、マッサージ、そしてオカルトに至るまでをも試した。試しまくった。
その結果……残念ながら男の短小は治らなかった。万事休す。残る手段はもう手術とか、改造とかのたぐいしか残ってはいない。男は絶望した。

「ちょっと、待て……」

 ついに少年は、男のマシンガンネガティブトークを物理的に遮った。少年がおもむろに男の股間を鷲掴んだのである。たとえ同姓と言えど合意なくそんな事をすればセクハラ、犯罪に違いないが、ここは二次元の世界なので少年が警察に捕まることはない。何よりここはホテルである。完全なるプライベート空間であり、公衆の面前でもなければ監視カメラも無いので少年の罪は成立しない。むしろそういった事をするためのホテルでもあるので、何ならサービスの一環ですらある。

 股間を鷲掴まれた男はみるみる青くなり、そして恥ずかしさで赤くなった。短小であることが少年にバレてしまったからだ。いや、短小であること自体は先ほどから男が自らバラしまくっているのでそれは良い。問題はとても恥ずかしい短小であることが、少年の手に直接伝わってしまった事だ。ガッチリと掴まれた股間が、恥ずかしいそのサイズを少年の手に伝える。男は真っ赤になった。そして、少年は真っ青になった。

 掴んだ男の股間のサイズは、少年の手のひらに収まるサイズどころの話ではなかったからである。それはもはや凶器。手練れの商売女とて、念入りに準備をしなければ怪我は必須。流血間違いなし。この先男が結婚することがあるとすれば、相手が可哀そうですらある。男のそれは、先っぽすら少年の手のひらに納める事の出来ぬ凶悪な逸物となり果てていた。一体どこの世界にこんな尋常ではないサイズのブツを受け入れてくれる者がいるというのか。いや、居るなぁ……ここにいるわ。

 青くなった顔で男を見上げると、恥ずかしさから紅潮した顔で覗き込まれた。そう、ここはホテル。そして少年はまな板の上の鯉よろしくベッドに磔にされている真っ最中である。逃げ場はない。

「こんな短小で恥ずかしいですが……だからあなたを買ったんです」
「いや、短小って言うかコレ……」

 男と少年は致命的にすれ違っていた。
短小という恥ずかしさを曝け出して真っ赤になりながら少年に頼み込む男と、真っ青になりながら男を諫めようとする少年。

 男は短小である。それと同時に童貞であった。短小というコンプレックスを気分的に和らげるため、童貞を先に捨てようと考えたのである。
たとえ短小を笑われても気にならないであろう同性を選び、口が堅くて後腐れの無さそうな、遊び慣れていそうな少年を買ったのであった。もちろん、お金を払って。

 男は下着から、『男が言う短小』の逸物を取り出した。
その時の効果音はポロンなんていう可愛らしい擬音ではなかった。ボロンッというか、もはやドスンッ!と鳴ったかもしれない。
男は童貞らしい余裕のなさで少年に挑みかかった。

「僕の童貞、貰ってください!!」

 少年は青ざめたままだが、諦めの境地で全身から力を抜いた。

 男が少年に払った対価は金貨三枚、前金で朝までフルコースだ。
夜はまだ始まったばかりである。

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